白と雪の季節

詠月

白と雪の季節


 「ふわぁ、寒い……!」


 昇降口を出た真白は、外の寒さに思わず身をすくめた。

 吐く息が白い。

 お気に入りの藤色のマフラーに顔をうずめ、小さく体を震わせる。

 朝はまだ暖かい方だったのに、と思うも気温は変わらない。

 委員会で少し遅くなったとはいえまだ6時。

 冬なんだなと実感させられた。


 グラウンドから聞こえてくる運動部のかけ声を横目に校門を出る。

 駅へと向かう途中も寒さにひたすら耐えて。

 ホームに入ったことで弱まった寒さにホッと息をつく。


 いつものようにイヤホンを着けて音楽を流していると、不意に肩を叩かれた。

 振り返ればニコニコ笑顔の男子。

 見慣れた顔に無視できず、真白は仕方なく着けたばかりのイヤホンを外した。


「やっほー、シロちゃん」

「ユキくん。今帰りなの?」

「うん。シロちゃんも? こんな時間に会うの珍しいね」

「委員会だったの」


 雪斗。真白の双子の弟だ。

 とは言っても全く似ていないのだけれど。

 同じ学校に通う彼は部活だったのだろう。

 ちょうど来た電車に乗り込みながら、雪斗はそういえばと切り出した。


「今日寒いね。ようやく冬って感じ」

「私もさっき同じこと考えてた」

「おー、すごい偶然! やっぱり双子だから?」

「それは関係ないと思うけどな」


 ドア付近に立ったまま、雪斗の言葉に真白は苦笑する。

 電車内は帰宅ラッシュと被ったのか、いつもより混雑していた。


「マフラーが必須アイテムになってくるねー。それは僕嬉しいかも」


 雪斗が着けているのは真白と色違いのもの。

 そっと自分のマフラーに触れ真白は目を細めた。


「……うん。そうだね」

 


『真白、雪斗!これ可愛いでしょう?』



 温かい声が頭に響く。



『わぁ、かわいい!』

『シロちゃんとおそろいだ!』

『きっとあなたたちに似合うわよ! 冬が楽しみね』

『『うん!』』



 3年前に死んでしまった母が、2人に贈ってくれたプレゼント。


「……懐かしいな」


 あれからまだ三年しか経っていないなんて信じられない。

 それくらい昔の出来事のように真白は感じた。

 電車が最寄り駅に到着しニ人は下りた。

 駅から外に出れば。


「うっわぁ、見てシロちゃん! 雪だよ!」

「わっ、本当だ!」


 真っ白な雪が2人の住む街を綺麗に彩っていた。


「綺麗……」


 真白はそっと腕を伸ばし指先を雪に触れさせた。

 あっという間に溶けてしまったけれど、それでも嬉しくて。


「いつぶりだろうね。何年も降ってなかったのに」

「三年ぶり……かな」


 最期に雪が見たいな、と。


 冬が大好きだった母の叶わなかった願い。

 今叶っても仕方ないのに。



『ねえお母さん』

『真白、どうしたの?』

『どうしてお母さんは冬が好きなの?』

『あ、それ僕も知りたい!』

『ふふ、それはね』



 真白と雪斗が身を乗り出すと母は微笑んで。



『真白と雪斗。ニ人の季節だからよ』



 そっと2人の頭を撫でてくれた。




「……私たちの、季節……」


「……うん、僕らの季節だ……」


 同じことを思い出したのだろう。

 真白と雪斗はニ人して口をつぐみ、舞い続ける真っ白な雪を眺めていた。


「……シロちゃん」


 しばらくして。

 先に動き出したのは雪斗だった。

 そっと右手を真白に差し出して。


「帰ろっか」


 ふわりと笑った。

 普段滅多にしないその行動に真白は一瞬目を丸くしたが。


「……そうだね」


 帰ろっか、と雪斗の手を強く握り返した。


「父さん帰ってきてるかな?」

「まだ仕事じゃないかな」

「じゃあ今日は僕たちで夕飯作ろうよ! 祝・初雪デーだよ!」

「なにそれー」


 ニ人は笑い合った。

 幼い頃のように、ぎゅっと手を繋いで。

 お互いの存在が隣にあることに幸せを感じながら。

 温かな家へと足を踏み出した。




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白と雪の季節 詠月 @Yozuki01

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