扉の向こうにいるものは

@gscr_hana

第1話

うちの家族は誰も霊感なんて持ってない。

正直、俺は幽霊も信じない方だ。

でもこれは、人間の仕業とは思えない程不思議な出来事だった。


ある日の深夜、家のドアが叩く音がした。

こんな時間に誰か来るなんて聞いていないし、訪ねてくる非常識な人も居ないだろう。


すると、飼っていた猫2匹が玄関に向かって走っていく足音が聞こえた。激しく唸っている。俺の部屋は玄関から遠いのだが、それでも聞こえるくらいに唸っている。


母の部屋からガチャっとドアが開く音が聞こえた。

もしかして、父が帰ってきたのか?俺はそう思っていた。

父は今日会社の人と飲みに行っているので、こんな時間に帰ってきてもおかしくない。

でも、猫がこんなに唸るなんて珍しい。


ドンドンドン


まだドアを叩いている。母も早く開けてあげればいいのに。

そう思っていると、なにやら玄関から話し声が聞こえる。母の声だ。

俺は聞き耳を立ててみた。


「どちら様ですか?」


母がそう言った声が聞こえた。父だろう。母もわかってるくせに。もしかして帰りが遅かったから怒っているのか?


ドンドンドン


ドアを叩く音が少し大きくなった。父も母のおふざけにイラついたのか?


「ただいま~」


今度はそう聞こえた。すると、


「バンッッ!!!」


と、ドアを手のひらで強く叩いたような音が聞こえた。

俺は飛び起きて、玄関へと向かった。妹も部屋から出てきた。俺と同じように聞き耳を立てていたんだろう。

猫はまだ強く唸っている。


玄関に着くと、母が猫を抱いて玄関を睨んでいる。

俺と妹を見ると、人差し指を口に当て、


「シッ…」


と、言った。


「ただいま~、ただいま~」


玄関からは、未だに聞こえる。


「父さんが帰ってきたじゃないの?」


母は首を横に振った。なんと父はもうとっくに帰ってきていたらしい。全身が凍った。


「じゃあ誰?」


妹がそう言うと、



「ただいま!!!!!」



とても大きな声で外にいる何者かが叫んだ。俺たちは3人とも飛び跳ねた。猫2匹は母の腕をするりと抜け出し、奥の部屋まで走って逃げていった。

俺は恐怖のあまり体が硬直してしまい、動けなくなった。



ガタガタガタガタ



なんと外にいる何者かが玄関のドアをこじ開けようとしている。まずい、やめてくれ。怖すぎる。



ガタガタガタガタガタガタ



ドンドンドンドンドンドン



ドアを壊す勢いで暴れている。本当に勘弁してくれ。

母はただ玄関を見ているだけだった。何も喋らない。

俺は気を失う寸前だった。きっと妹もそうだろう。



「ただいま~、ただいま~、ただいま~」



あいつはずっと繰り返している。お前の家はここじゃないのに。一体誰なんだ。


するとその時、シャン、シャン、という鈴の音と、あの臆病な足音が2つ、聞こえてきた。

猫がおばあちゃんの部屋から鈴とお守りを咥えて持って、走ってきたのだ。

そして、ドアにタックルした。


「ドン!!!!」


2匹のおデブちゃんがドアにぶつかったので、鈍く低い音が家に響いた。


すると、ドアを叩く音はピタリと止んだ。人影も無くなっていた。


それから何分経ったか分からないが、俺たちはようやく動けるようになった。




次の日の朝、ぐっすり寝ていた父にそのことを話した。


「じゃあ、ばあちゃんのお守りを使って、お前たちを助けたってことか!?」


父は大笑いしていた。俺たちが3人揃って寝ぼけていたのだろうと。


「ホントなんだってば!!」


「わかったわかった、じゃあ猫ちゃんに感謝しないとだな」


父は俺たちの話を本気にはしていないだろう。

昨日のことはもう忘れよう。俺たちはそう決め、学校へ出かけた。

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