概要
私は元来、この娘という生き物が、例えようもなく恐ろしかった。
私は妻の頬を打った。ぱちん、と冷たい音がした。もう一度、その頬を繰り返し撃ってみた。ぱちん、と今度はやや熱っぽい音がした。妻は、動く様子がなかった。私は、再び同じ頬を打とうとして、もう一度同じ手を挙げた。「堪忍して」と妻は蚊の鳴くような声でいった。私は、わけが分からなかった。そこで、再び頬を打った。妻の身体は、ぐらりと揺れた後倒れてしまい、私はそれを、引っ張り上げねばならなかった。
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!狂気的な美しさ
まとめ方も描写も綺麗で美しいと思ったのですが、「綺麗」や「美しい」と形容するのは一般的ではないかもしれません。
一筋縄ではいかない退廃的な美麗さがあります。
汚物の描写にも死の描写にも廃墟に迷い込んでしまって(廃墟探索の描写はないのですが)、そこに住んでいた人の記憶を床の染みやじっとりした空気の重さから感じ取っているような、鬱々とした耽美さを感じます。ですが、「退廃」や「耽美」という単語でも済まされない精神的な圧力があります。
見てはいけないものを見ているような背徳的な気持ちにもさせられます。ですが読み進める手は止まりません……
最後の一文は主人公の全てが弾けてしまったようにも思います。或い…続きを読む