まとめ方も描写も綺麗で美しいと思ったのですが、「綺麗」や「美しい」と形容するのは一般的ではないかもしれません。
一筋縄ではいかない退廃的な美麗さがあります。
汚物の描写にも死の描写にも廃墟に迷い込んでしまって(廃墟探索の描写はないのですが)、そこに住んでいた人の記憶を床の染みやじっとりした空気の重さから感じ取っているような、鬱々とした耽美さを感じます。ですが、「退廃」や「耽美」という単語でも済まされない精神的な圧力があります。
見てはいけないものを見ているような背徳的な気持ちにもさせられます。ですが読み進める手は止まりません……
最後の一文は主人公の全てが弾けてしまったようにも思います。或いはやっと本音が出せたような、ぞわぞわした気持ちにさせられました。
最後の一文には背筋を生暖かいものが撫でていったような常識では考えられない恐ろしさと妙に明るくすっきりとした感覚が詰まっていて、何度もこの気持ちをどうすればいいんだ、どうしよう、と考え込んでしまいました。