見ている

 私の同僚から聞いた話なのですが。



 夏場とはいえ、こう雨が続いていると夕方でも薄暗くなります。

 小学生の時、学校で作業をしていて帰るのが遅くなってしまい、先生から「今日はもう片付けて、教室の戸締りをして帰るように」と言われたそうです。


 分厚い雲に覆われた空はなんだか黒く、それでいて妙に明るい変な夕方で、気がつくと急に土砂降りの雨が降って来たそうです。



 帰ろうと電気を消したタイミングではありましたが、雨が降っているのに気づくと、彼は窓を閉め忘れていたことを思い出しました。



 彼がいたのは小学校の1階で窓から雨が吹き込んできたので、慌てて窓を締めに行くと、窓の外におかっぱ頭の少女が見えたそうです。


 こんな雨が降っているのに、傘がないのか、かわいそうだな、と思いながら窓を閉め、カーテンに手を伸ばしてふとその少女の方へ視線を戻すと、その少女が他に誰もいない、薄暗い校庭で佇んでいるのが見えました。




 先ほどと違うのは……



 その少女がこちらを見ている、ということでした。




 目線が合っているかはわかりませんでした。




 ただ、虚に俯いていたからです。





 彼は気にはしたものの、先生の言葉を思い出してカーテンを閉め始めました。



 そして、もう一方のカーテンを引き寄せようと視線を変えた途端、校庭に佇んでいた少女の姿がこちらに近づいていたのです。




 なんだか不気味な気分になり、慌ててカーテンを引き寄せ、左右のカーテンを揃えようとした時でした。








 その少女が、窓のすぐ前まで近づいていたのです。





 彼は怖くなってカーテンを乱暴に閉めました。



 そして、その電気の消えている暗い教室から一刻も早く外に出ようと教室の方に振り向いたとき、その少女が彼の目の前に立っていたそうです。










 俯いたまま、真っ白なその顔を引きつらせて、笑みを浮かべながら。









 彼は一心不乱に逃げ出したそうですが、いまだに雨の日に窓の外を見ると、なんだか見られている気がするそうです。










 不思議な体験は誰にでも起こりうるものです。







 今、この窓の外に、その少女の姿が見えているとしたら……。

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押入れの中の怪物 青我 @untitled

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