4.光が見えた ・あとがき
一曲歌い終わると知絵は言った。
「すごいじゃない。これだけ歌えれば優勝も夢じゃないかもね。一人一人の声はいいんだから、やっぱり団結力が足りなかったのよ」
「でもここには半田さんがいないわ」
ゆかりが言うのももっともだ。さらに哲弥が付け加える。
「その前に俺たちが助からないとな」
皆が落ち込んだその時、秀夫が声を上げた。
「今、何か光が見えなかった?」
「気のせいじゃないか」
哲弥の言葉に秀夫は反論した。
「違うよ、確かに見えた。僕の1.5の目を信じてくれよ」
「もしかして人魂かもしれないぞ。ここは青木ヶ原樹海だからな」
則之の指摘に女子三人は震え上がった。
「キャアー、恐い!」
「折角忘れていたのにひどいわ」
知絵が抗議する。
「ごめんごめん。でも磯野も結構恐がりなんだな」
その間にも、秀夫は光の見えた方角に必死に目をこらしていた。
「また見えた! 黄色い光だ」
皆は秀夫が指差す方向をじっと見つめた。
その時、一筋の光が遠くの木々の中に差すのが見えた。それと同時に、「オーイ、オーイ」というような声もかすかに聞こえてくる。
「私たち、助かったのよ!」
ゆかりが歓声を上げる。
「お前の目のお陰で助かったよ」
哲弥が秀夫の肩を叩く。
「そうだ、わたし達も答えなくちゃ」
知絵の一言で、我に返った皆は叫び始めた。哲弥は懐中電灯を振っている。
「オーイ、ここだよ!」
それから約十分後、明かりに気づいた昭美と警察官たちに無事6人は救出されたのだった。
その後、救出された6人は警察からみっちり絞られたが、ある意味結束が強くなった。もちろん消えた6人を探すために警察へ連絡してくれた昭美にも皆は感謝した。
そして今日は班対抗合唱大会の日。7人は音楽室前の廊下で最終打ち合わせをしていた。
「みんな、あの時のように精一杯歌うのよ。もちろん半田さんもね」
知絵の言葉に哲弥が続いた。
「『くちびるに歌を持とうぜ』の精神だよ、な」
「それを言うなら『くちびるに歌を持て』でしょ」
ゆかりが突っ込む。
その時、音楽室のドアが開いた。先生の呼ぶ声がする。
「1班さん、時間ですよ」
「はーい、今行きます」
代表して知絵が答える。7人はそのまま音楽室へ入っていき、ドアが閉められた。
そして、音楽室から7人の歌う『気球に乗ってどこまでも』が流れ出した。
終わり
注)作中『兎のダンス』の歌詞はパブリックドメインです。
あとがき
以前「自分、みいつけた」を発表した際、「初めて完成させたオリジナル作品」と書きましたが、その後捜索中に出てきたのが本作の原型となった作品です。中1の文化祭に合わせた原稿用紙20枚の作品でした。オリジナルでは『気球に乗ってどこまでも』の歌詞も書いてありましたが、著作権が切れてないので今回は割愛しました。
なお、『くちびるに歌を持て』の内容については私のオリジナルです。
くちびるに歌を持とうぜ! 大田康湖 @ootayasuko
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