第17話 前略、道の上より-最終話
*
闇の中から車のヘッドライトが近づいた。そして、二人が呼び止めるまでもなくそれは停まった。二人が唖然として見ているとドアが開き、中川としのぶが飛び出してきた。
「見つけたぁ!」
二人は唖然として見ていた。
「大丈夫?」
悲壮な顔でしのぶが駆け寄ってきた。それがあまりにも現実感がなくて、二人はぼんやりとしているしかなかった。
車から由起子が降りてきた。二人に優しい笑みを向けながら。それを見て、イチローはようやく話が理解できた。
「先生……」
「まぁ、よくこんなとこまで来たものね」
「よくわかったね」
「苦労したのよ。まぁ、中川君の情報収集能のおかげ、っていうとこかしら」
中川は少し照れながら、直樹に肩を貸して立ち上がらせようとした。直樹は、そんな中川を見ながら、
「ありがとうよ」と言った。
「いえいえ。後で、ゆっくりお話を聞かせて貰えれば、それで充分です」
「また記事にするのか?」
「まぁ、たぶん」
「ちゃっかりしてやがる」
二人が笑い合ってるのを見てようやくしのぶの顔から悲壮感もなくなった。イチローはそんなしのぶの表情を見て、意を決した。
「おい、しのぶ…ちゃん」
「え?」
イチローは引き擦るように足を畳むと、正座した。
「オレ……、悪いこと、言っちまった。ゴメン」
じっくりとしのぶの顔を見つめた後、そのまま土下座した。しのぶは、突然のことに唖然としながら見つめていたが、慌ててイチローの手を持ち上げようとした。
「そんな、そんなことしてもらわなくても」
「いや、オレが悪かった。だけど、言っておくぞ。オレは、直樹さんに負けたから、謝ってるんじゃない。ずっと、悪いなって思ってたんだ。走りながらも、考えてたんだ。謝らなきゃって……。それで、直樹さんを利用して、謝ろうって」
「いいのよ、もう」
しのぶは涙をこぼしながら首を振った。それを見てイチローはまた頭を下げた。
「おいおい、なんだ。今の言い方だと、わざと負けたみたいに聞こえるぞ」
直樹の冷やかしにイチローは慌てた。
「そ、そんなじゃないよ。オレ、完敗だよ。直樹さん、やっぱりすげえや」
「まぁ、おまえより二つも歳上だからな」
「でも、勝負は勝負だ。オレの負けだ」
「イチロー君、素直になったわね」
「あぁ。でも、次は負けないぜ」
「もう、勘弁してよ。捜す方の身にもなってね」
笑い声は夜空に響き渡った。夜空は抜けるように澄んでいて、遙か高くに天の川が横たわっているのが見えた。
グリーンスクール - 前略、道の上より 辻澤 あきら @AkiLaTsuJi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます