第16話 前略、道の上より-16
*
美崎遊園を探し回った由起子たちは、二人が見当たらないので湾岸線をさらに南下した。すっかり暗くなってしまい、視界も悪くなった。
「どこかそのへんで倒れてるかもしれないから、よく見てて」
「ん。でも、見にくいな」
「暗くてよく見えないよ」
道は次第に坂になって、高架になった。高速道路のようなその道には歩道はなかった。
「先生、この道って、人はダメなんじゃないの?」
「そうね。そうかもね。下の道かしら」
「引き返すの?」
「次のインターで降りるわ。それで、道を確認しましょ」
*
風が冷たい。いや、空気自体が冷たい。汗は完全に冷えて体を包む。イチローは暗がりの路肩にへたばり込んだまま、身動きできなかった。少し休んだおかげで息は落ち着いていた。しかし、もう足が立たない。立とうとすると、足首と脛と膝と太股が、全部バラバラの方向を向いてしまう。右足と左足のバランスもとれない。
―――負けた。
道の先を見ると、ゆっくりと直樹が戻ってくる。右足を引き擦っているものの、まだ歩いている。
―――ちくしょう……。
直樹は間近に立ってイチローを見下ろした。
「どうした?終わりか?」
「……ぁぁ」
「ん?なんだって?」
「……、オレの負けだ。捨てていけ」
「ふん。やっと、終わったか」
そう言うと直樹はその場にへたばり込んだ。
「あぁ、疲れたぁ!」
地面に大の字になって大きく伸びをしながら直樹は言った。イチローは、ちくしょう、と思いながらも、笑みがこぼれてきた。
「おまえ、たいしたもんだな」
直樹が笑顔を向けながら言った。
「え?」
「たいしてもんだ。こんなとこまで来るとは思わなかった」
「ここ、どこだよ」
「知るか!」
「ちぇっ。さっさと、放って行けよ」
「バーカ。そんな体力残ってるか」
「え?」
「駅なんて探す体力なんか、残ってる訳ねえだろ」
「じゃあ、どうするんだよ」
「知るか」
「…あんた、結構、無謀だな」
「まぁな」
「もっと、お坊ちゃんかと思ってた」
「バーカ。俺は俺だ」
「そうだな、……そうなんだよな」
「そうさ。おまえも、おまえだろ」
「あぁ、そうさ。オレは、イチロー様だ」
「負けといて、様、はねえだろ」
「そう言うなって」
二人の笑い声は闇の中に響いた。
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