転生したら、黒板消しだった件

大官めぐみ

第1話

「うおおおおおおおおおお!」


 ザンッと音をたてて鋭い剣が真っ赤なドラゴンを切り裂く。

 ドラゴンはグオオおお!とうなって倒れ、盛大に爆発した。


「よっしゃあぁあぁぁぁぁぁ!!」

「やりましたわね。勇者様。これでミッションコンプリートです。大変お疲れ様でした」


 そういって俺に向かって魔道師の服を着た金髪の美少女が微笑んでくれる。俺は力強くうなずいた。

 そして口を開く。


「これで俺は日本に帰れるってわけだな。さらに時間軸は元通りっと」

「はい。その通りでございます」

「冷たくない?普通ここは行かないでください勇者様!とか言うシーンでしょ」

「そんなことを言っても無駄だと知っておりますので」


 そういうと慈愛の微笑みを向けながら手を青々とした草原に向ける。すると奥が見えない暗闇が出現した。まがまがしい闇が奥に広がっている。


「これをくぐれば元の世界、日本に帰れるはずです。その・・・・・・ラーメン?という食べ物も食べれるはずですよ?」

「そうかそうか。いやったあああああぁぁぁぁぁぁ!」


 俺はその女の子の手をぎゅっと握り振り回す。少女は驚いた顔をしながら付き合ってくれた。俺は手を離し、ゆっくりと名残惜しそうにそれに向かって歩く。

 ゲートにたどり着くとその少女のほうを振り向いて手を振る。


「じゃあな。お姫様。国を大事にしろよ」

「言われなくてもそうしますよ。勇者様。お元気で」


 俺はゲートをくぐった。そしてきたときと同じような感覚に襲われて、気を失った。


☆★☆★


「ハッ!」


 目を覚ますと異世界の時には見られなかったタイル張りの天井が目に入る。俺はあ~戻ってきたんだという実感に襲われた。匂いは・・・・・・しないな。異世界にいたときのような普段からパンの匂いに包まれることは無いんだと思った。

 チクタクという時計独特の音が耳を打つ。懐かしい車のエンジン音や踏切の音が心地よい。


「よし、起きるか!」


 そう思って体を動かそうとする。しかし、ピクリとも動かない。  


「どうした?」


 再び起こそうとしてもやはり俺の体は全く動かなかった。指一本すら動かせない。いや、違う。

 

『え?』


 それにそもそも口が無かった。よってしゃべれていない。

 俺は全身に異世界で教わったマナをいきわたらせ全身を確認する。

 かっこよかった(独自論)筋肉質(そんなことはない)の体は頭からあしまで。おなかの辺りにはなにやら布らしいふわふわのボディ。背中は異世界のアルマジロモンスターと同等の硬さの板。そして、体の横に点々と打たれて固定させられている黒いプラスティック。

 

『これ、黒板消しじゃないの?』


 俺の心の中で絶叫が響き渡った。


★☆★☆


 俺は心を落ち着かせて環境を確認してみる。

 まず右側に当たっている深緑の壁。これは黒板だ。正直黒板消し目線だとマジででかい。その一言に尽きる。

 次に場所。いわずともがな教室だった。机と机の幅が狭く、椅子も机も何もかも小さいのでおそらく小学校だろう。

 そして時計が指している時間は午前七時。これだけは俺が転生させられた時間と同じだった。


『あのくそお姫様アマ!なにが失敗はしませんからだよ!失敗、バリバリの失敗じゃねぇか!』


 俺の脳内でさっきまで見ていた笑みが悪魔の笑みに変わった。あんのヤロー今度あったらぶっ○す。


 時間的に小学生が登校してくるのはそろそろだろう。俺は今から騒がしくなるのかと思い頭を抱えた。

 よく考えてみるとあれだよな。今から俺の体は持ち上げられてギッギ黒板を拭かされるわけで・・・・・・。死にたい。


 心の中でため息をついていると、男の子の元気な声が響き渡ってくる。それに待ってよ~という女の子の声が聞こえてくる。そして次第に廊下を走る音が大きくなってきた。

 一瞬そんな足音が止まったと思うと、バンッとすさまじい音が誰もいない教室に響き渡る。はぁはぁと息を切らしている様子が連想された。死角で見えないからね!

 その後に続いてこちらも息を切らしている女の子が入ってくる。

 男の子がポーンとランドセルを放ったのか机ががたんと動いた。


「何でこんなに、はぁ、早いの?今日、ハァ、ハァ、何かあったっけ?」

「なんにもねぇよ。早く来ちゃわりぃのかよ」

「そういうんじゃなくて、恭ちゃん、何しにきたのか聞いているの」

「そんなのいたずらに決まってんだろうが!」


 ―――悪い子だな~


 そういうと恭ちゃんと呼ばれた男の子は俺のほうへ向かってきた。そして俺の体をつかむ。そうすると黒板の溝にあるチョークの粉を俺の腹に押し付けてくる。

 

『グエッホ、グエッホ。粉の味が・・・・・・まっず。ていうか腹から味感じ取るのかよ。不便な体だな』

 

 そんな事お構いなしにぐいぐい押し付けてくる。き、気持ち悪い。

 満遍なくつけると男の子は満足したのかフンッと鼻を鳴らし俺と目を合わせてきた。(そう思っているのは俺だけ)

 そうしたら女の子が声を上げた。


「やっぱりダメだよう。そんなことしたら、お友達かわいそうじゃん。それに黒板消しさんにも迷惑だよう」


 ―――いい子だな~


「はん、そんなことはねぇよ。いいから見てろって」


 ―――クソ野郎だなこのガキ

 

 男の子は椅子を持って俺の体を持ち上げると何をするかと思えばスライド式のドアに近づいていった。


『何をするんだ・・・・・・ってまさか!』


「にひっ」


 椅子を近くに置き律儀にも靴を脱いで手を、俺のことを持った手を上に持ち上げる。そして、


『グフォア!』

 

 俺の体を盛大に音を立てながらドアにはさんだ。もろかったのかプラスチック製のボディーがミシッと音をたてる。

 こんな扱い、勇者だった俺は経験したこともない。いや、勇者だったどの冒険で負った傷よりもひどく痛んだ。骨が折れるより痛いってどういうこと?

 男の子は気味悪い声で小さく笑うと何事もなかったように椅子から降りもとあった机に戻す。そして目元が黒く覆われている狐と双子のいのししの物語を読み始めた。


『おい!このままにすんなよ!たしかにそのポプ○社の物語は面白いけどこれしたあとに読む話じゃないよな?』


「恭ちゃん、駄目だよ。こんなことしたら神様が黙っていないよ」

「神様なんていないんだよ。いいから他の、最初に来るやつの反応見ようぜ。ぜってー面白いから」

「そんな・・・・・・」


 心優しい女の子が瞳に涙をうっすら滲ませながらうつむく。もういいんだ。おれの体より心が痛んじまう。泣かないでくれ。どうか・・・・・・


 その時だった。俺がはさまっていた呪縛から解き放たれる。


「いっちばーん!!!あれ?」

「「あれ?」」


 勢いよく開けられたドアから入ってきた男の子に当たることなく俺は落下。そして―――


『ギャアア!』

 バキッ!


「「「あっ」」」


 それからの意識はない。


☆★☆★


「・・・・・サマ。・・・・者様。勇者様!」

「はっ!」


 俺は体を起こしあたりを見渡す。

 あふれんばかりの緑を持つ平原。この世のものとは思えない澄んだ青を持つ大空。そこを地球上のものとは思えない何かが飛んでいる。

 体を起こすとそこには悪女とまで思った王女様がいた。白いベレー帽をかぶったおっさんもいる。

 ここは――異世界?


「なにぼうっとしているんですか?私の求婚を断ってまで帰りたいって言ったニホンというとこへいくんでしょう?」

「えっ?」

「ほら、ゲート開きましたよ!行かないのですか?」


 彼女が指差す先には黒く光った禍々しい門があった。さっきのと同じだ。

 俺のこめかみを生暖かい汗が通っていく。

 彼女は一片たりとも笑みを崩さない。これは・・・・・・。

 俺は彼女に向かって頭を下げた。


「申し訳ありませんでした」



☆☆☆☆☆


 深夜のテンションで書き上げたくだらないこの話を最後まで読んでくださった皆様、ありがとうございます。大官めぐみです。

 ただ異世界から戻って最強!っていう王道は大好きなのですがそれじゃあなんかワンパターンだなと思いこうして書かせていただきました。

 正直自分でも何書いてんだとは思います(笑)

 ここまで読んでいただき本当にありがとうございました。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

転生したら、黒板消しだった件 大官めぐみ @ookei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ