第36話 エピローグ ~とあるショットバーのありふれた風景~
「それでよー……っと、もうなくなっちまったか。マスター、次はいつものだ!」
「はい、少々お待ちください!」
注文を受けた雫はウイスキーの一つ――グレンフィディックをロックスタイルで仕上げ、目の前に座っているゴンズに提供した。
その直後、店の扉がゆっくりと開かれ、雫と同じ服装に身を包んだ淡い青髪の少女が入ってくる。
「戻りましたー! あっ、ゴンズさん! いらしてたんですね!」
「お帰り、アーリアちゃん! ありがとね」
「おう、邪魔してるぜ!」
その少女――アーリアはカウンターの中へと入り、雫とゴンズの会話に加わった。
それから数十分後。
再度扉が開かれ、今度は二足歩行の猫が木箱を持ってやってきた。
「マスター、アーリア……おはよう。納品……来た」
「あ、パスカさん、いつもありがとうございます!」
「おはよう、パスカちゃん! うん、全部ありますね! はい、これ代金です!」
箱の中身を確認したアーリアはそれを引き取り、代わりに店の金庫から取り出したお金をパスカに手渡す。
「うん……確かに受け取った……。また夜……みんなと来る」
「はい、お待ちしてます!」
パスカはそう言うと、カウンターに座っているゴンズにペコリと頭を下げてから店を出ていった。
「タンポポの花……いや、今はタンポポ商会だったか。あいつら頑張ってんな」
「ええ、おかげでだいぶ洋酒が普及しました」
「だな。この間依頼で遠くの村に行ったんだが、そこでも酒が売られてたぜ。どこでもウイスキーを飲めるってのは助かるぜ、ほんと」
彼女らの懸命な働きにより、雫が想定していた以上の早さでニーログーネ王国中に洋酒が行き渡った。
その事実は国外にも知れ渡り、最近では友好関係にある隣国――ボンベイル帝国との輸出入の話も出てきている。
「だからと言って、お店に来なくなるなんてことは辞めてくださいよー?」
「何言ってんだ、アーリアちゃん。俺はただ酒を飲みに来てる訳じゃねぇ。お前ら二人に会いに来てんだ。それとこれとは別もんさ」
アーリアの冗談に、ゴンズはニカっと笑いながら言葉を返す。
それを聞いたアーリアは嬉しさと同時に恥ずかしさを覚えたのか、顔を赤らめた。
同時に雫も嬉しさで胸がいっぱいになる。
バーテンダーは客に好かれてこそ。
ゴンズの言葉はまさにバーテンダー冥利に尽きる。
「そう言ってもらえて嬉しいです! これからもどうぞご贔屓に!」
「あたぼーよ! ……って訳で、お代わりを頼む!」
「あっ、じゃあ私が!」
「おう、頼むぜ!」
雫と立ち位置を交代し、アーリアがお代わりを作り始めた瞬間、新たな客が姿を見せた。
「「いらっしゃいませ!」」
「やっほー、雫ちゃん、アーリアちゃん! それにゴンズちゃんも。今日は早いわね」
「おう、ビビアン。そういうお前もな。店はいいのか?」
「今日は出勤している子が多くてね。だから心配ご無用よん。あっ、アーリアちゃん、いつものお願いね!」
「はいっ!」
どこにでもある普通のバーのありふれた風景。
ただ一つ、この店<バー ドロップ>は他のバーと大きく異なる点がある。
それは店員と客、その場に居る誰もが幸せな気分でいることだ。
居るだけで笑顔になれる不思議なショットバー、今日も異世界にて営業中である。
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【異世界ショットバー『ドロップ』 ~店ごと転移したバーテンダーの営業日誌~】これにて完結となります!
ここまでお読み頂き、ありがとうございました!
また、本作をベースとした【異世界ショットバー しずく】がドラゴンノベルス様より書籍化されました。
web版から大きくストーリー展開を変えてますので、ぜひそちらもお読み頂けると幸いです!
よろしければ公式PVもチェックしてみてください!
https://www.youtube.com/watch?v=-W2mx_4p6dg
異世界ショットバー『ドロップ』 ~店ごと転移したバーテンダーの営業日誌~ 白水廉 @bonti-
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