§127 幕間(帰路)
――王皇選抜戦が終了した日から一日空けた朝。
わたくし、エリミリーネ・シェルガ・フォン・アウグスタニアは、アウグスタニア皇国への帰路についていました。
馬車の目の前に座るのは、わたくしの従者であるメアリー。
そして、わたくしの左手の薬指に光るのは、白く透き通る宝石をあしらえた指輪です。
わたくしは、それを愛おしげに見つめながら、昨日のことを思いだし、つい笑みを零してしまいます。
そんなわたくしを見たメアリ―が声をかけてきました。
「リーネ様、今日はとてもご機嫌がよさそうですね」
「ええ、とても」
わたくしは満面の笑みでメアリーに答えます。
思い浮かぶのは、照れて真っ赤になったジルの顔です。
ジルはそういう顔もできるところがずるいです……と思わず独りごちりたくなります。
「昨日はお楽しみだったようですもんね。
「あら、それではわたくしだけだと心配みたいな言い方じゃないですか。メアリーの中でジルの評価がそこまで上がっていることが素直に驚きですわ」
「まあジルベール様はリーネ様の命の恩人でいらっしゃいますからね。ちなみに
メアリーの興味津々の瞳がわたくしを射貫きます。
しかし、わたくしはその質問を笑って誤魔化します。
「それはわたくしとジルだけの秘密です」
そう言ってわたくしは外の景色に目を移します。
流れるは、ユーフィリア王国の大自然。
わたくしは心に誓います。
またこの国を訪れようと……。
そして、次こそは絶対に勝手みせますからね。
覚悟していてください、ジル、レリアさん。
――そんなことを考えていると、次の瞬間、馬車がガタンという大きな音を立てて急停車しました。
「何事です!」
わたくしは過去の嫌な記憶が蘇り、思わず身構えます。
同時にメアリーも席を立ち、退路を確保する観点から、馬車の扉を開け放ちします。
すると、伝令と思われるアウグスタニアの兵がそこにおりました。
馬車と止めてまでの報告とは、相当火急の用件なのでしょう。
わたくしはその者に問います。
「何事です! わたくしはアウグスタニア皇国第二皇女エリミリーネ・シェルガ・フォン・アウグスタニアです」
肩で息をしている伝令は、わたくしの前に跪き、口を開きます。
「エリミリーネ殿下に申し上げます! 先ほど皇宮から連絡が入りました! 内容は……ベルハルト皇太子殿下が他国へ向けて武装蜂起したとのこと! おそらくは、自軍の勢力拡大を狙った侵攻であると思われます」
「ベルハルト兄様が?!」
わたくしは思わず声を張り上げます。
ベルハルト兄様は、アルフレット兄様が逝去された今、皇位継承順位は第一位。
わざわざ勢力を拡大せずとも、安泰な地位におられるはず。
それなのに、王皇選抜戦の来賓のため首脳が国を出払い、加えて、新・創世教問題で早急な対応に追われているこのタイミングで一体なぜ……。
わたくしは兄の愚行とも取れる行動に唇を噛みしめます。
「状況はわかりました。して、兄様が侵攻された他国とは?」
「はっ! 申し上げます! ベルハルト殿下が侵攻する先はデイノピア連邦。――通称『魔境』と呼ばれる土地です!」
(了)
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【あとがき】
このたびは、『世界最速の魔法陣使い』をお読みいただき、ありがとうございます。
書き溜めていた更新分は以上で、ここまでがちょうど2巻までに掲載されている内容になります(ウェブ版と書籍版は一部内容が異なります。)。
読者様には大変申し訳ない連絡になりますが、この先の内容を書くかについて、とてもシビアな話になりますが、3巻を刊行できるか次第なところがあります。
私自身も先の構想がある終わらせ方にしてるので、続きを書きたい気持ちはもちろんあるのですが、やはりモチベやリソースの問題が出てくるのです。
そのため、このようなお願いをするのは大変心苦しいのですが、この先も読みたいよという方は是非、書籍版の『世界最速の魔法陣使い』をご購入ください。
もちろん無理強いをするつもりはありませんので、応援してくださる方ということで構いません。
どうかどうかよろしくお願いします。
また、長きにわたり、拙作をご愛顧いただき、本当にありがとうございました。
私が小説家を続けていられたのは、読者の皆様のおかげです。
心より感謝申し上げます。
世界最速の魔法陣使い・ハズレ固有魔法【速記術】×『魔法陣』で最強に至る 葵すもも @sumomomomomomomo
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