一台のピアノと触れ合ったさまざまな人の人生が、その時々の心情に合わせた楽曲とともに丁寧に綴られる、心温まる物語です。
都会のマンションに住む男性、西岡博也。彼はピアノの調律を仕事にしています。博也は、ある日トラックに積まれ捨てられそうになっていたピアノを不憫に思い、そのピアノをなんとか救い出します。丁寧に手入れをし、調律されたピアノは、博也のマンションのロビーに置かれることになります。
ロビーのピアノと関わり、音楽を楽しむマンションの住人たち。彼ら一人ひとりの人生が、丁寧に、細やかに描き出されていきます。そこにあるのは幸福感だけでなく、孤独や悲しみ、恨み、後悔、生きる上で避けられないさまざまな感情。そんな彼らの色とりどりの感情が、たくさんの親しみやすい楽曲とともに丁寧に綴られます。
場面に合わせた楽曲のチョイスはセンスに溢れ、それぞれの話ごとに工夫が凝らされています。時にクスッと笑えたり、時に涙を誘ったり……音楽の持つ力の大きさにも、改めて深く頷きます。
美しい旋律とともに人生に真摯に向き合う人々の姿を細やかに描き出した、素晴らしい物語です。是非、ご一読ください。
私自身ピアノを幼い頃から弾いていたこともあって、とても楽しくこの作品を読ませていただきました。
小さい頃、母が贔屓にしていたピアノの調律師さんが「ピアノは生き物だからね」と良くおっしゃっていたのですが、その言葉をまた改めて思い出しました。ピアノって大切に扱えば扱うほど、その気持ちに応えるようにものすごくいい音色が出るものだと思うので。
きっと主人公にそんなピアノに対する想いや愛があったからこそ、主人公の直したピアノに触れた人達の心が、そのピアノによって暖かくなったり、凍えた心が溶けていったのかな、と思いました。
また、どんな人達にも、様々な悩みがあり、また、心の支えになるものがある。それが数々の名曲と共に見えてきてとても考えさせられました。
すごく、心温まる作品です。