ラノベ好きの母に作品をブクマされて読まれています
加藤伊織
ラノベ好きの母に小説をブクマされて読まれています
連載している小説の今日の更新分を書き上げてノベルチェッカーに通し、もう一度読み直して誤脱チェックをしてから投稿サイトにアップする。そして、Twitterに更新を告知する。
お茶を飲んだり、洗濯物を片付けたりして戻ってくると、ありがたいことに何件か応援が入っていることがある。
その中に、よく知ったアカウント名を見て私は乾いた笑いを浮かべた。
「気付くの早すぎるでしょ……」
そのアカウント名は、母のもの。
母は昼間タブレットでゲームをしながら、私の小説の更新通知が入るとすぐに読みに来る。
母は昔から読書好きで、特にラノベが好き。
我が家は亡くなった父も含めて全員読書が好きで、私が結婚する際に北方謙三の「三国志」を巡って奪い合いが起きた。私が買ったのに!
何故か父・母・私でジャンケンによる争奪戦が起き、なんとか私が勝って家から持ち出すことができた。
今思うとあれはずるい。父が勝っても母が勝っても実家に置いていくことになったのだから。
私が加藤伊織という名前で小説投稿サイトで活動し始めたのは半年前。
けれど、私が小説を書き始めたのは小学生の頃で、当初から使っていたペンネームは二次創作で今でも使い続けている。
その頃はパソコンは一般家庭にはなく、ワープロも普及しておらず、文房具屋で原稿用紙を買ってきて、それに鉛筆で小説を書いていた。
だから、私の部屋に山と積まれた原稿用紙を父は勝手に読むことができたし、中学2年の私の小説を読んで「お前。これじゃ小説家になれないぞ」とか言ってきた。
いや、確かに稚拙だったろうけど、それ以前に娘の書いてる小説を勝手に読むなと言いたい。今度お墓参りに行ったらちょっと言うことにしよう。
話は母に戻るが、家族全員がハマったのは浅田次郎先生の作品の数々で、特に壬生義士伝は「通勤中に読んで泣いた。あれは電車の中で読む物じゃない」と私と父で同じことをやった。
そして、母は父が決して手を付けないタイプの小説も読んだ。
私の買っている、少女小説やライトノベルの数々。ラノベとはちょっと言い難いけど十二国記とかも大好きで、アニメもハマっていた。
そして――私が夫と結婚前提で同棲する時に実家の部屋の押入の奥深くに隠しておいたBL小説も、勝手に漁って読んでいた……。
考えてみて欲しい。通院のために帰宅して自分の部屋に入った途端、現在は母が使っているパソコンの横に読みかけのまま置いてあるBL小説(しかも2巻)を見た瞬間の娘の気持ちを。
しかも母は「それ面白いわねー。私、あやかし物好きよー」とかのたまうのだ。平然と。
BL小説(本番あり)を読みましたと平然と娘に告げる母がどこにいる! ここにいるけど!!
私はアニメイトの壁に貼ってあったことで知った創作サークルに、中学の終わりから入っていた。定期的にサークル誌に小説を書いてはいたが、投稿などはしなかった。
当時はWEB小説などはなく、一度投稿して駄目ならもう終わり。作品の発表の場がなく、私は臆病であったために自分の作品を投稿することができなかったのだ。
ただし、同人活動は高校からやっていた。
高校に合格したら買ってあげると約束をして買ってもらったワープロで、小説を書きまくった。
大学になると本格的に同人誌を出し始めてコミケに毎回出ていた。それはほとんど二次創作ではあったけど、社会人になってからも続いていた。
この頃書いていた物は、親は読んでいない。ただ、私が小説を書き、そこそこの人気を得ていることだけは知っていた。
そして、積み重なったいろいろなことを機に、私は一度筆を折った――。
創作の世界に戻ってきたのは2015年。刀剣乱舞にハマったことがきっかけだった。
一度枯れたと思っていた私の中の創作の泉は満々と水を湛え、いくらでも書くことができて、書く喜びに久しぶりに浸りながら私は小説を書きまくった。
pixivの小説部門デイリー1位になったときは、家族で御祝いにピザ食べ放題に行った。そのくらい、私の創作は家庭内でオープンだった。
この頃の小説も、母は読んでいない。
母が私の小説を読むようになったのは、私が「加藤伊織」になってからだ。
何故かというと、単純に、見せても平気なものを書くようになったから。
それまではほぼBLだったので、いくら評価が高くてもさすがに親には見せられなかった。
母は、小説を読むのが好きだ。
十二国記の続編も18年待った。
そして待望の新刊が出たときには老眼で、活字を読むことが厳しくなっていた。
母は本を読むことができないことを嘆き、「早くアニメにならないかしら。ていうか、あらすじ話して! ネタバレでいいから!」と私に懇願するほどだった。
オタクは遺伝するな、というのを実感するのはこういう時だ。
そんな母に、私はタブレットで好きな字の大きさで読むことができるWEB小説を教えた。ついでに当時書いていた「椅子召喚」も教えた。
そして母は、私の小説にハマった……。
冷静に考えるとそう不思議なことではない。
今までの読書傾向がほぼ一緒なのだから。
好んで読んできた物が一緒なら、私の書く小説が母のツボに入るのも納得できる。
そして「椅子召喚」は小学1年生の登場人物とその担任の話で、登場人物の何人かのモデルになっている娘を身近に見ている母にとっては「あるあるあるある! わかるー!!」だったのだ。
モデルが目の前にいるんだから、それは共感するだろう。
そして母は他のWEB小説を読みながらも私の小説の熱心な読者になり、一緒に昼食を食べてる間中「昨日の更新分のアレね」と感想を言われたりする。
慣れてない人にとっては「何その地獄の光景」と思うかもしれないけども、私にとっては日常茶飯事だ。恐ろしいことに。
「笑える話がいいなら、こういうのもいいよ」
時々私はオススメを母に教える。ある日、母は私に向かってこう言った。
「ギャグ一辺倒とかはいらないのよ。あんたの小説はキャラが真面目にやってて、それでも笑えることになってるのがいいの」
なんということでしょう。
私の小説の一番の理解者は、実の母でした!
さて、今母が買い物から帰ってきたので、もうすぐ連載の今日の更新分に応援が入るでしょう。
画面の向こうからの応援ももちろん嬉しい。
けれど、家族に応援されている私は、間違いなく物書きとして幸せなのでしょう。
ラノベ好きの母に作品をブクマされて読まれています 加藤伊織 @rokushou
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