生徒会の花嫁~金髪アイドルが生徒会に入りました~
ねむ
プロローグ 運命の朝……?
ガヤガヤと雑な会話音がそこら中に漂う早朝の商店街。
「ねえヒロくん、お姉ちゃん今日の夜ご飯はカレーがいいなぁ」
登校途中の商店街にはどこかからカレーのにおいが訪れていた。
隣にいる幼馴染のその言葉に俺は適当に、しかし的確に返す。
「そうだな、カレーのにおいって何故かそそられるよな」
ふと香るカレーのにおいは俺たちの食卓に並ぶメニューを決めるには有り余る存在感だった。
「明日の朝もカレーがいい!」
「そうだな、一晩おいたカレーって何故か美味すぎるよな」
あれには本当は野菜や肉などの具から溶け出すうま味の素が増えるからという理由があるが、まあ今時の人間は、とりあえず美味いからそれを想像するだけでも美味いってなもんだろう。
「ひったくりーー‼」
どうでもいい話ばかりしながら登校していた俺たちの視線の先で、どうでもよくないであろう逼迫した声が響いた。
ひったくり犯であろう男は女性用鞄を手に提げて、全力で脚を回転させていた。
「一夏、持ってろ」
俺は幼馴染に鞄を手渡し、地面を蹴った。
別に運動神経が良い方ではないが、朝の混雑した商店街を俺は通り慣れている。
ひったくり犯はおそらく周辺地域に住む人間じゃないだろう。
人ごみに紛れるつもりだったのかもしれないが愚策だったな。
「よし追いつい——……」
手が届く——
「ぐぼァあ!?」
はずだった……が、突如背中に衝撃が走った。
俺はエビ反りになりながら、ひったくり犯の眼前に迫り……いや単純に突き飛ばされて距離が迫ったのだが、勢いのままそいつを巻き込み激しく転げまわった。
上下左右ごちゃごちゃに混ざった視界の中に映ったのは金髪の少女の姿。
彼女はひったくり犯の方を見て、申し訳なさそうに手を合わせ、
「やば! 巻き込んじゃった! ごめん、おじさん!」
なんでそっちに謝るんだよ……なんて思っても声が出ない。
霞んでいく俺の視界に最後に映ったのは遅まきながらも駆け寄って来た一夏の姿。
あとは、任せた……。
次に俺が目を覚ましたのは学校の保健室だったが、まだ8時半とそれほど寝込んでいたわけでもなく、ホームルームがちょうど始まった頃だろう。
「やっと起きた~! 心配したよヒロくん!」
「く、苦しい……」
俺が起きたとほとんど同時に、ぼやける視界にいた一夏が一気に迫り、鯖折りを喰らわせるように俺を抱き寄せた。
当然すぐに目も頭も冴えたので、俺は冷静に一夏の腕を解き、
「ホームルームに出るぞ」
「まだ寝てなよ。お姉ちゃんが先生に言っておくから」
「いや、出るよ」
朝のホームルームに間に合うなら俺は出るべきだ。そういう立場だ。
どういう立場かはまた次回にでも話そうと思う。
さっさと保健室を出て、俺は教室の扉をスライドさせた。
「——アメリカ人と日本人のハーフ、黄瀬七葉です! 日本語は問題ないので、皆さん仲良くしてください!」
地獄へいざなう、運命の扉を……。
「お、来たか。遅いぞ黒崎! 転校生の紹介済ませちゃっただろ」
「あ、ひったくりー⁉」
「……げっ、ゴリラ女?」
運命なんてものがあるとしても、それは必ずしもポジティブな物とは限らない。
運命的な最高の出会いなんて俺は信じない。
……最悪の朝だ。
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