第3話 まさかの最難関ミッション?
放課後、7月の夕暮れは暑さを残す。
西日の差す生徒会室はすさまじい熱気を閉じ込めていた。
偏に……俺の怒りのせいで。
「さ~て、来週のサザエさ……じゃなくて。さてさて教えてもらおうか。
なんで生徒会役員が揃いも揃って、全員……赤点候補生なんだ⁉」
「いやだって今回ヒロくん手伝ってくれなかったし……」
俺をヒロと呼び赤点の言い訳材料にしようとしている女は、長い黒髪を指に巻きつけいじけた様に言った。
さすがは昔からテストの度に俺に頼り生き延びてきた幼馴染。
生徒会副会長・桃乃一夏。
「ゲームの発売日と被った」
言い訳でもなんでもなく、潔く勉強しなかった理由を告白した大のゲーム好き少女。
生徒会会計・水原三柚。
「私とお姉ちゃんは生徒会が忙しくて勉強する時間なかったんですよ。私は部活もやってますが、特に生徒会ですね。赤点を取って欲しくなければ生徒会の仕事を減らしてください」
どさくさに紛れて生徒会への文句を垂れ流したのは水原三柚をお姉ちゃんと呼ぶ少女。
生徒会書記・水原五月。
「私はだって……転校してきたばっかだし?」
大した言い訳も思いつかなかったのか疑問形で答え、飴細工のような細い金髪を振り回してそっぽを向いた転校生。
生徒会庶務・黄瀬七葉。
なぜこんな修羅場的な展開になっているかと言えば、それは昨日の帰り際に理事長から告げられた言葉が発端だ。
『今回のテスト学年1位おめでとう、千尋君』
『どうも』
『ところで他の役員の成績は知っているかな?』
『? ……いえ』
『これだよ、見てごらん』
『⁉ 全員……全教科……赤点?』
『いやぁ困った。実に困ったね! 我が校は赤点を取り単位を落とし続ければ、退学処分となってしまう! 別にどこぞの生徒が退学になろうと君には関係ないかもしれない……しかし!
それが君の務めた生徒会の役員ともなれば話は別だ。君の目の届く範囲で退学処分を受けた役員がいれば、それは君の評判に傷がつくかも?』
『何が言いたいんですか?』
『君の推薦に影響が出るかも……という話さ』
『俺に、あいつらの勉強を見ろと?』
『まあ端的に言えばね』
『それは生徒会の業務ですか?』
『君の推薦のための特別課題……だよ』
『……わかりました』
俺が推薦を得るためにもこいつらを退学させるわけにはいかない。
俺の身の上話とそこに関連した特別推薦の話は伏せたまま、理事長に退学させないように勉強させろと言われたことにして、四人に話を通した。
「ということで、今日から勉強会を実施する!」
「え~」
「無理」
「嫌です」
「嫌よ」
……俺泣いていいかな?
いいよね、こいつらひどいよね。
「いいか! 俺がすいせ……じゃなくて俺は生徒会長として、お前たちを退学させるわけにはいかないんだ!」
危うく推薦について口走ってしまう所だった。
「退学なんてオーバーな大人の脅しよ。結局そんなことにはならないわ」
「残念ながら過去に赤点を取り退学になった生徒は何人もいる。データも残ってる」
当然ハッタリだ。そんなの調べてるわけがない。
どうせゴリ……黄瀬はそれを調べる気も無いだろうから、嘘かどうかはどうでもいい。
こいつらにどうにか勉強させるんだ。
「ヒロくん、勉強会っていつやるの?」
「基本的には生徒会業務を早めに終わらせてその後かな。あとは業務の合間にできた時間を使ってそれぞれ勉強してもらう」
「ゲームの時間は?」
「そんなものない! てかそもそも生徒会室でゲームすんなよ!」
いや現在進行形でピコピコとゲームしている奴に言っても聞きやしないだろうけど。
「お姉ちゃんがやらないなら私もやりません」
「いや全員強制的にやれって言ってるんだが?」
「私はやるよ。今までもずっとヒロくんに教わってきたし」
「一夏……」
「私はパス」
「私もです」
「やるわけないでしょ」
一夏以外は全員がやらないと宣言した。
俺は教師じゃないからこいつらに強制的に勉強させる手段がない。
考えるな、感じろ。
やっぱ考えよう。感じろってただの放棄だ。
「…………じゃあ、追試験をしよう。明日行われる追試で全教科合格した者にはもう何も言わない」
「会長、追試ってほとんど同じような問題が出るって知ってますか?」
「そうなの? じゃあ楽勝ね」
「私たちをなめすぎ」
「……ふん。じゃ、頑張れよ」
俺の出した条件は全教科合格。
まあ当然無理だと分かっているが。
しかしあいつらがこれを達成できるなら、赤点を取ることはあっても退学するほどではないだろう。だができなければその時は……。
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