第2話 黒崎千尋の特別任務

「お邪魔しまぁす」


 昨日第1話よりも若干くだけた様子で、生徒会室に金髪のメスご……少女はやって来た。

 いや違うよ? メスってのはほら、あの……金色のメスを持った医者とかいたら『かっこよくね?』的なアレで……。


「ヒロくんこれ判子ないよ!」


 とか言い訳してる余裕も今はあんま無くて……。


「悪い! もう出なきゃだから捺しといてくれ!」

「はーい!」

「黄瀬、今日はそこにいる副会長から業務の説明受けといてくれ! 俺はちょっと別件で忙しいんだ! じゃな!」


 そう、俺は忙しい。

 生徒会長としてもだが、今黄瀬に伝えた様に今日はそれとは別件だ。

 これは会長としてではなく、ただの黒崎千尋としての仕事の話だ。


 まあ今回は俺のもう一つの役割のお話です。

 別にヒロインがたいして出るわけでもないし、飛ばしてくれても構いません。

 別に落ち込んだりしてないし、これからもしません。

 後悔しない人だけ飛ばしてください。



** * * * * * * * *


 昨日、黄瀬には生徒会の仕事は二つあるという話をしたが、生徒会長の俺だけはもう一つ役割がある。

 というよりはその役割の中に生徒会としての仕事があると言った方が正しいかもしれないが。

 俺たちが通う里塚学園は私立高校であり、授業料もバカにならない。

 しかし我が家は父親のいない貧乏家族。

 にも関わらず俺が通えているのは、入学試験で首席になるだけの頭脳を持って特待生制度で入学したからだ。

 そしてわざわざその制度を利用してまでこの学校に入ったのには訳がある。

 簡単に言えば貧乏だから。

 そんな理由もあって、この学校で受けることができる特別推薦制度を利用するためだ。


 特別推薦制度は国内外問わず、有名大学への進学を約束する切符のような物。

 そして入学費用や授業料が免除されるという特別待遇だ。

 それは数多くのコネクションを持つこの学園だからこそ用意できる代物。


 ん……? そろそろ飽きてきた?

 もう少し聞いてくれ……。


 特別推薦制度は学校で優秀な成績を収め、なおかつ理事長自らに推薦される必要がある。

 しかしこの制度はほとんど伝説みたいなもので、受けられる生徒は5年に1度もいるかいないかだと言う。

 それを知った俺は、受験の面接試験の際に現理事長に宣言した。


『特別推薦制度を貰うためにこの学校に来ました』


 それを聞いた理事長は高らかに笑い、


『いいよ、面白いしね! ——ただし、条件がある!』


 条件1・生徒会長になり学校を導くこと。

 条件2・理事長からの特別任務を受けること。


 特別推薦制度を使い有名大学へ生徒を送り出す以上、その生徒が何かやらかした時に恥をかき罰を喰らうのは送り出した学園だ。

 そのため見極める必要があるらしい。


『ちなみにこの制度が伝説みたいになってるのは、ただ単にこれを受ける生徒が特別凄すぎるからビビッて誰も手を上げないだけなんだよねー』


 と、最後にオチを付けるように言っていたのはどうも気になったが、とにかくこれで土台は出来た。

 あとは積み重ねていくだけだ。



 そして俺は入学してすぐに生徒会に入った。

 その話は今しても本編とあんまり関係ないからまたいつかとして、それから3ヶ月経って生徒会長になり今に至る……というわけだ。


 だから今日も直接生徒会には関係ない任務を理事長に任されたわけで、内容は何かと言うと……


『バドミントン部とバスケットボール部が揉めてるらしいから収めてきて』


 と言われただけ。

 その後情報を集めたところ、どうやら体育館の使用に関して揉めているらしい。



** * * * * * * * *


 ということで熱帯と化した日本のオアシス・体育館に到着。

 しかしオアシスの中でどうにも太陽がいくつか暴れているようだ。

 そのせいかますます熱気は激しくなっている。


「——元々俺らが使う日だろ⁉」

「負けた奴らには必要ないだろ!」

「なんだと⁉」


 パンッ!


 と、俺は両手を打った。


「「生徒会長⁉」」

「話は聞きました。『大会を勝ち抜いたバスケットボール部がバドミントン部の時間も体育館を使って練習したい』ってことでいいですね?」

「ああ。そっちの方が有意義だろ?」

「俺たちだって負けたからこそ次のために練習するんだ!」


 明らかにバスケ部の言い分は横暴で、バド部の方が正しい。

 だが生徒会長として、俺は全校生徒を導く立場にあり、どちらの意志も尊重し支える使命がある。

 そのための準備はしてきた。


「バスケ部に第2体育館の使用を許可します」

「え、でも第2体育館って、他の部活が……」

「他の部活動はいったん別の場所で活動してもらうことにしました。あとは部長が申請するだけで通るようにしておいたので。

 ただし期間は大会が終わるまで、終われば全て元通り……いいですね?」

「うん……うん、ありがとう!」


 バスケ部の練習場所・練習時間の増加に、バド部は少々納得しきれなかったようだが、大会を勝ち抜いた彼らの功績を称えた褒美だということで渋々承諾を得た。


 これが最善の妥協案だった……と、思う。



 全校生徒のための任務だが、理事長から言われただけで、俺は自分が推薦を貰うために自分のためにやっている。

 任務の度に思う。これでよかったのか……と。

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