第1話 ようこそ生徒会へ
学校の中でも一際重厚な面持ちの扉の奥、そこは開かずの間……などではなく、生徒会室である。
俺はその生徒会室にゴリ……ゲフンゲフン、金髪の転校生を招き入れた。
「お邪魔します……」
「そこのソファに座っててくれ。他の奴らに連絡だけしとくから」
「ええ」
黄瀬七葉は言われた通りにソファに腰を下ろし、さらさらと音を静かに立てて髪を撫でる。
その様はとてもじゃないが、今朝俺を突き飛ばしたゴリラとは似ても似つかない。
なんでこんなにおしとやかなのかは置いといて、嵐の前の静けさというか美少女の皮を被ったゴリラというかとかは置いといて、なぜ生徒会室にこいつを招き入れたのかを教えよう。
こいつと悪夢のような再会を果たした後、俺は担任教諭に呼び出された。
『黒崎、理事長からの伝言を預かってる』
『あ~、僕今忙しいんでまたあとで……』
『実はだな』
『有無を言わせぬとはこのことか』
『転校生・黄瀬七葉を生徒会に入れろとのことだ』
『えっ、あいつを? なんで?』
『知らん。だが理事長直々のお達しだぞ。お前は立場的に断れないだろう?』
『まあ、そうですね』
『それに確かまだ席は空いていたはずだろ。ちょうどいいんじゃないのか?』
『それはそうだけど……』
『それに美少女だぞ?』
『ただのゴリラでしょ』
という会話が繰り広げられ、今に至る。
どうせ断ることはできないし、役員の席も確かに一つ空いている。
あ、ちなみに俺は生徒会長。まあ断ることができない理由はそれだけじゃないけど……。
「連絡は済んだ?」
「あ、おう」
俺はスマホの画面を切り、黄瀬の向かい側のソファに腰を下ろした。
「今日は久々にオフにしてるから他の奴らはいないが、現在の生徒会役員は俺以外に3人いる。
お前にはまだ埋まっていない庶務をやってもらおうと思っている」
「わかったわ」
「…………」
「なによ」
「いや、急に連れてきたのに文句言わないんだなって思って」
「別に言ったところで仕方ないし……。パ……理事長に言われたら断れないでしょ?」
「そうか? あの人いい加減な所あるし、無茶言うこと多いから、断る時は断らないと付け込まれるぞ」
そう、俺はまさにあの理事長に付け込まれた被害者と言っても過言ではないだろう。
理事長には毎度のごとく無茶な依頼をされている。
「そういえば、なんで転校してきたんだ……って聞いてもいいか?」
「そんなこと気になる?」
「まあ時期的に珍しいかなって」
今は7月。
別にありえないような話ではないが、転校してくるにしては中途半端な時期に思えた。
とても暑い時期に思えるのもタダの妄想で、本当は涼しいとかないかな……ないよね。
「特に面白い理由は無いわよ」
「…………そっか」
これ以上は詮索するな、とでも言われている気がした。
まあ少し違和感を感じただけだし、特に興味もない。
仕事の話を続けよう……
「ちょっとォォォーーーーーー‼‼」
と、ドガンと爆音を鳴らして生徒会室の扉が開いた。
「何しに来たんだよ、集」
扉を開いたのは白川集、俺の昔からの友人だ。
それにしても、あの重い扉を吹き飛ばす勢いで開くほどあいつの腕力は無いはずだが、なるほどフィクショ……ゲフンゲフン、か。
“ゲフンゲフン”便利だな。多用していこう。
「いた!」
「は?」
「お前彼女を生徒会に誘ったなら言えよ! 友達だろ⁉」
「何の話だよ」
集は俺の質問を無視して、いや俺も友達かどうか答えてはいないけど、いや友達だけど。
とにかくこいつは俺を無視して黄瀬を凝視した。
何かを確かめるかのように。
「ほ……本物だぁ~!」
「本物?」
「はぁ⁉ お前知らずに彼女を誘ったのか?」
「いやさっきから何も話が通じてねェよ。なんなんだよさっきから、なあ黄瀬」
と、俺も黄瀬を見やると、黄瀬は明らかに俺から視線を外した。
「え、お前はわかってるのか?」
「当り前だろ、本人なんだから」
俺の黄瀬への問いかけは、集が返した。
いや意味わかんない答えだけどな。
「ここにおわすは今を生きるアイドル・黄瀬七葉ちゃんだぞ!」
「…………」
「なんか言えよ!」
「別にたいして感動もないよ。この学校じゃ有名人は珍しくないし、俺はアイドルに興味もない。ましてやこいつとは出会いが出会いだったからな。ゴリラとしか……」
「あァン⁉」
「キレんなよ」
まあこれでクラスが少しざわついていた理由は分かったな。
いきなりアイドルが転校してきたんだ。そりゃざわつく。
「それにしても、なんで七葉ちゃんはこの学校に……?」
「あ、そのくだりはさっきやったからカットで」
「ひどくね⁉」
いやだって尺の問題ってのがあるじゃんね?
「じゃあ、なんで今活動休止中なの?」
「…………別に。ただ今は高校生活に集中しようかと思っただけ」
高校生活に集中することと、転校してきたこと。
矛盾しているわけではないけど、何か引っかかる気がする。
どうせ何も話さないだろうから聞きはしないが。
「いや~それにしても生徒会の席、空けといてよかったなー!
おかげで七葉ちゃんとお近づきになれちゃったし!」
「近づいているかどうかは別として、席が空いてるのはお前が俺の誘いを断ったからだけどな」
「だって生徒会なんて面倒じゃん」
「おかげで俺は苦労してるよ」
「俺は自由にのほほんと、たま~に遊びに来るくらいがちょうどいいんだよ。
まあ偶にはまた手伝うからさ、これからは来る回数増やしてやるよ♪」
「これからはこき使う回数増やしてやるよ♪」
その後『またね~』と気色悪い笑みと何とも言えない空気の中に俺と黄瀬を残して、集は生徒会室を後にした。
しかしあんな性格とは言え、あれでもあいつは仕事ができる。
それに集が生徒会室に素直に入っていてくれていれば黄瀬が入ることはなかっただろうに。
とはいえ、今さらそんなこと悩んでも仕方ないしな。
「それにしても随分おとなしかったな。とてもドロップキックしてきたゴリラとは思えなかったぞ?」
「なっ……! だからアレはあんたがひったくりかと勘違いしてて——」
「マジで痛かったんだからな?」
「謝ったじゃない!」
とても反省している様子には見えないが、落ち込んでいるようにも見えない。
多分、アイドル活動の休止についてはこれ以上聞かないほうがいいのだと思う。
「じゃあ仕事の話を続けるぞ」
「うん」
「俺たち生徒会の仕事は大きく分けて2つ。一つは通常の生徒会業務。もう一つは依頼や相談事の解決だ」
「依頼……?」
「うちは目安箱を設置していてな。目安箱への投書に基づいて依頼や相談事を解決することも生徒会の仕事なんだ。ただでさえうちは通常業務が忙しいってのに、無くそうとしたときには既にもう遅かった」
本当に用意周到なおっさんだよ、あの人は。
「ふ~ん」
「他人事じゃねぇからな? マジで忙しいぞ?」
「わかったわ。それが仕事ならきちんとやるわよ」
「ゴリラ系アイドルにはきついんじゃねえの?」
「はァ?」
いやホントおっかないよ、こいつ。
アイドルとしてどうなのよ、それ?
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