第4話 俺、探偵になれるかもしれん

「なぜ私まで」


「仕方ねえだろ? おっさん、年頃の女の子の扱いなんて、わかんねんだからよ」


 今日は初めての顔合わせの日だ。

 部屋を出ると、さまざまな装飾を施された長い廊下が現れ、そのまま道なりに歩いていた。

 目に入る品々は、おそらく、俺の月給と変わらんくらい高いんだろう。


「依頼された仕事を、一人でやり遂げるのがプロというものでしょう」


「どんな手を使っても、仕事を完璧にこなすのがプロってもんだ」


「屁理屈言わないでください。依頼を受けたのはフリス、あなたでしょ」


 ここでは色々できる。花道や、茶道、音楽などなど、いわゆる貴族の嗜みをあらかた体験できるのだ。しかも、マリアが必要となるものも、経費に含まれるらしい。


 今までじゃ考えられないくらいの高待遇っぷりだ。


 そして、マリアは今、盆栽にはまっているらしく、朝から盆栽眺めていたのを無理矢理連れてきたら、この様子だ。


「へいへい。それはそうと、あんまり金使うんじゃないぞ」


「話を変えないでください!」


「いやマジなんだって。もちろんSの冒険者として、依頼は完遂するつもりだが、万が一もあるだろ? たく、端の方に小さく書きやがってよ。全額返金とか、あれじゃ詐欺じゃねえか」


「仕方ないですよ。じゃないとフリルは働かないんだから。日頃の行いのせいでしょ」


 これ以上何も言えなかった。だって図星だし。


「まぁ………へい。」

「なるほど、あなた達が依頼されてきた愚民の方たちですね」


 突然廊下の角から現れたのは、あからさまに王女様の格好をしたなにかだった。背は低いな、まぁ、みんな成人してないっつってたし、当たり前か。

 こいつがもしかして第二王女のサラフォうんちゃらか? 写真なんか見せてもらってねえから、わかんねえな。


「たく、最近のガキは礼儀がなってねえ。人にあったらまず挨拶だろうがこのちんちくりん。ごきげんよう、だったか?」


「ごきげんようって………ふふ。あなたには似合わないですよ」


「笑うなマリア! 仕事だ」


 隣で口を押さえて今にも吹き出しそうになっているマリアは置いといて、


 いやしかし、こいつかなり強いな。まぁ、理不尽を跳ね返せるほど強くなきゃ、こんなとこに一人で出てこないだろうが。


 おっと、もしかして俺、探偵の才能あるか?


「今、王女である私を侮辱しましたね」


「第何王女だ?」


「あなたに教える必要などありませんわ。今ここで、死刑執行されるのですから!」


 といいつつ飛びかかってきた王女。そして、細長い飛び道具を投げつけてきた。


 ふむふむ、人型とやるのは久しぶりだが、よくある手だな。

 まあおそらく、俺が飛び道具に反応した瞬間に、背後に回る作戦だ。


 これは初手ならかなり強いんだが、


「まあ、俺には効かんよな」


 俺の背後をとった王女の、そのまた背後をとったった。そして、回避の際に回収した、さっき投げつけてきた飛び道具を、王女に突きつける。


「はぁ、俺に探偵の才能はなかったか。」


 息を荒くして固まった王女。いきなり割と難易度の高い技を、仕掛けてくるだけあって、実力差を理解したらしいな。

 マリアも特に驚きもせずに見ている。


「なんの話です?」


「いやなあ、一人で出歩くくらいだから、強いんだろうなと思ってたんだが、このザマ」


 まあ、あんまり依頼主待たせるのも悪いし、サクッと片付けるか。


「おまえさん、王女っつったよな? 一応だから、今ここでやっても罪には問われないんだが、俺も人を殺すのには若干の抵抗があってな。大人しくさっきの質問に答えるか、今ここで継承戦をリタイヤするか、どっちがいい?」


 と、


「フリルちゃんかっこいい!! 綺麗に決まったね!!」


 ………やりづれえなおい。お仕事見学は私語厳禁って、常識だろうが。


「……第3王女」


「おっと、依頼主じゃなかったか。まぁ今は見逃してやる。気をつけて帰れよ。じゃーな」




                  *

                 *

                 *



「こりゃ、案外うまくいくかもな」


「そうなってくれないと困るのでちゃんとこなしてくださいよ」


 さっきからやたら厳しいのはなんなんだよ。


「開けますよ?」


 縦首を振れば、俺の代わりにマリアが、目の前の豪奢な扉を押した。

 もちろん、もう既に殺し合いが始まっている、続世離れした空間の扉が、簡単に開いてくれるわけもない。


 扉が動くと同時に、左右と上部から数本の矢が射出された。


 それを全て弾く。


「おいおい、こんなトラップあるなら、事前に伝えておくべきじゃないか?」


 俺の独り言に小首を傾げるマリア。マリアからは見えてなかったから、わかんねえか。


 まぁ、このくらいで怪我するような奴は、初めからお断りってことだろうな。この館の中なら、人を殺しても罪には問われないからな。


「なんでもね。いくぞ」


 一応警戒していたが、それ以上トラップはなく、扉は完全に開いた。

 部屋からはふわっといい香りが漂い、内装は質素すぎず、派手すぎず、貴族にしては珍しい感じだった。


 これは紅茶の香りか?


 さらに奥に目線をやると、ソファに腰掛け、マグカップを片手に、紅茶に息を吹きかけている少女がいた。


 姉妹のはずだが、さっき見たのとは全然似てないな。さっきのは金髪だったが、こっちは青みがかった白髪か。

 ゴスロリ衣装に、それに合わせたカチューシャ、長いソックスを履いており、露出といえば顔ぐらい、といった完全装備っぷりだ。


 なんというか……凛として大人っぽく振る舞ってるが……十歳にもいってないよな? これ。


「お、おう……ごきげんよう……」


 未だ紅茶から目線を離さない、無愛想な王女様はいいのだが、隣でクスクス笑ってるマリア、お前は後で覚えてろ。


「躾役を依頼されたフリスだ」


「同じくマリアです」


 すると、今まで紅茶から目を離さなかった王女様が、パッとこちらを向いた。


「だれ!?」


 その声を聞いて確信した。

 こいつ、絶対十歳未満だと。


 つか、気づいてなかったのかい。

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「おっさんが感染る」とSランクなのにギルドを追放されたから、ずっと依頼されてきた第二王女のお守り役でも受けようと思う〜近々そのギルドが潰れるらしいが、こっちは元気でやってます〜 @サブまる @sabumaru

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