第3話 城にて
数日かけて、引越しの手続きを終えた後、ほぼ手ぶらで城までやってきた。
宿から馬車で三日ほど。
隣の隣の街スレイルにどっしりと構えたそれは、見た感じは立派で、とんでも無く巨大な城だ。
「ほんとにここに住めるんでしょうね」
半目を向けるマリアに、首を縦に振ってやる。
馬車の中でマリアはこればかり言っていた。
まあ確かに、冒険者が城に入るなんて聞いたことないし、何より『死んだ魚の目をしたおっさん』とまで言われた俺に王女のお守りを依頼するとか、信じられないのも仕方ないな。
と、一番外側の門の前で黙って立っていると、中から黒いスーツを着た執事らしき初老の男が歩いてくるのが見えた。
「話は伺っております。どうぞ中へ」
「へえ、お出迎えがあるのか? いいご身分になったものだぜ」
「ええ、まあ。仕事ですので。本当はあなたような下民を相手にするなどお断りなのですが」
「……おいおい」
悪態つくこの老人に案内されたのは、豪華な装飾が施された立派な客室だった。
「あなたたちは今日からここ住んでいただきます」
悪態つかれながら案内された、綺麗な部屋。
言うならば、本当は部屋に招き入れるのが楽しみで、来る寸前まであーでもないこーでもないと悩んだ末に、やっと納得いく部屋に仕上がったのに、それがあたかも当たり前で何気ない日常の一コマだと言わんばかりの態度で、意中の相手を部屋に案内する女の子のようである。
新手のツンデレか? おっさん、もうそんな新しいのついてけねえぜ?
神妙な顔でキョロキョロする俺とは対照的に、マリアは目を輝かせていた。
「ほんとに……お城に住めるだなんて……ずっと夢だったの」
「あそう、そりゃよかったな。夢が叶って」
「フリス、あなたのお金で住む予定だったんですからね」
「無茶言うな。過労死させる気か」
話を先に進めたかったのか、じいさんがおほんと咳払いをした。
感じわりいなこのジジイ。
「それで、隣のその方は?」
「姉のマリアです」
「はい。わかりました。…………は? あね……?」
「ずいぶん長いためだったなおい。スルーされるのかと、おっさん心配になっちゃったじゃねえか」
間を抜かして口を開けっ広げるジジイ。
俺は半笑いで説明してやる。
「色々あって姉だ。まあ、見た通り、歳は大体20くらい離れてるが」
「娘、いや、孫ではなかったのか……」
「おいこらジジイ。誰が老け顔だこら。俺はまだ36だぞ。ピッチピチの働き盛りだぞこら」
「目は死んでますけれどもね」
「同伴者という形でなら、貴方様も宿泊可能です」
わかりやすく頬を緩めるマリア。
はあ、まあ生活費の心配しなくていいから、楽ではあるな。色々苦労かけてきたしな。
「本題に入る前に、依頼内容の再確認をしていただきます」
ジジイが一枚の紙を取り出す。
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『内容:第二王女の教育係』
・報酬 月給40,000,000ガルド
・仕事内容 第二王女の教育。護衛。遊び相手。その他雑務。
・労働環境 王城(泊まり込み)
・待遇 賞与あり。生活費支給。健康診断あり。税金免除。
・勤務時間 9:00〜17:00(ただし、有事の場合はその限りではない)
・休日 祝日休み。週休二日、完全解放(ただし、有事の場合はその限りではない)
・長期休暇 夏休みあり(ただし、有事の場合はその限りではない)
・条件など 仕事にかかる費用は全て経費として扱う(記録なし・自己申告)、三食昼寝付き(有事の際はその限りではない)、服装自由(ただし身なりは整えること)
*以上のことで不明な点は、質問を受け付けます。
・注意事項 第二王女が、次の王位の座を獲得できなかった場合はこれまでの費用を全額返済する義務を負う。なお、返済を断った場合は王家反逆罪として死刑に処する。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
依頼書と全く一緒だ。
「これからログドア・フリス様には、コロシウス王国第二王女であるサラ・フォレット・コロシウス様の教育係となっていただきます」
サラフォ……なんだって?
「内容についてはかいてあるとおりです。ご質問等あれば、ワタクシが面倒だと思わない範囲で答えさせていただきます」
「いや、ない」
と、まあそんな感じで、いきなり無職になったおっさんが、城で王女のお守りをすることとなりました。
情勢はかなり荒れているらしい。
受付嬢の言っていた通り、現国王に男の子が生まれなかったから今王女たちの間で熾烈な王位相続争いが行われているのだそうだ。
国王がもうちょっとハッスルして、男の子でも作らせたら良いんじゃねえか? そう思ったが、それはダメらしい。王族のめんどくせえ決まりがあるのだとか。
王女は五人。第一、第二、第三、第四、第五。
この振り分けは、母親の権力順だそうだ。
俺が担当することとなった第二王女は、まだ十三歳らしい。他の王女もまだ成人していないと聞いて、おっさんちょっとついていけるか不安になった。
ジェネレーションギャップとやらを痛感させられた日にゃ、おっさん寝込むぜ?
俺はまあ、政治的なこととか全くわからんわけだから、王女を強くすると言うことのみに絞られるわけだが、あのジジイなんて言ったと思う?
『王女を強くしてください。物理的に』
って言ったんだぜ?
王女が戦うってそう言うこと? もっと裏に手を回したりして陰湿にやるもんだと思ってんだが、どうやら違うらしい。
案外ラッキーだ。俺はそこまで頭が回るわけじゃねえし、裏の裏の裏を読むような心理戦は大の苦手だ。
物理的に強くするだけなら、いくらでもやりようはある。
「ステータスを拝見してもよろしいでしょうか?」
「ん? あ、そういやステータス画面なんて久しぶりに開くな」
ジジイの要望に答えて、ステータス画面を表示させてやった。
==================
ログドア・フリス 男
Lv43
力:S
耐久:B
器用:S S
敏捷:C
魔力:S
《魔法》
風 水 火 大地 氷 光 重力
《スキル》
===================
「……さすがは、Sランクと言うだけありますね……これでまだ成長途中だとは……」
「まあな。あんたのは?」
==================
ジョア・クローゼット 男
Lv83
力:A
耐久:C
器用:A
敏捷:S
魔力:C
《魔法》
風
《スキル》
===================
レベル高え。どんだけ修行すら、こうなるんだよ。俺とは大違いだぜ。
レベルはただ魔物を倒すだけでは上がらない。精神を鍛え、肉体を鍛え、心身共に、次の段階に行く準備が整って、初めてレベルアップの資格が得られる。
そこで、格上の魔物と戦うことでレベルアップするのだ。
まあ、戦いはステータスが全てというわけじゃねえしな。俺も俊敏なんてCだが、Sランクの冒険者をやってきたわけだし。
「何か困ったことがあれば少しは力になりましょう」
「バカ言うな。ジジイをこき使うほど俺はクズじゃねえよ」
すると、微妙な表情でジジイは鼻を鳴らした。
「ふん、労りの言葉と受け取っておく」
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