エピローグ:最後の彼女
「それでそれで、チリトリさんはどうなったの!? 隕石は!?」
「バカお前、俺たちが生きてるんだから、ぶっ壊したに決まってるだろ」
子供たちがきゃいきゃいと騒ぐ。
昔話を語っていた老人は、窓の外の空を見上げた。
「彼女は結局、一人で行ってしまったんだ。地球を発つ日に引き合わされたマスターを見てね。厳重に拘束した死刑囚か、死などとっくに覚悟した軍人がくるのだろうと、彼女は推測していたそうだよ」
不思議そうに首をかしげる子供たち。
『ここで教授が出てくるとは推測していませんでしたよ。おかしな人ですね』
恐怖に顔を青ざめさせて、がたがた震えながら搭乗口へ現れた教授を、彼女は笑い飛ばしたのだ。ひとしきり笑った後、自分で要求したマスターを地球に残したまま、彼女は隕石を破壊するため飛び立った。
そうして、老人は今も生きているし、ここにいる子供たちのように次の世代も育っている。
「教授の娘はね、AI管理都市でテロが起こったとき人質にされていた小学生の一人だったそうだよ」
老人はもう一度窓の外を見上げて、暖かな日差しに目を細めた。
「恩を返したかっただけなのだがね」
その言葉を届ける先は、もうどこにも存在しない。
<彼女の欲したもの・了>
彼女の欲したもの 佐藤ぶそあ @busoa
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