第5話 伸びる線路

 伸びる線路。開かずの踏切。茂った草木。田んぼの近くのカカシ。当たり前の風景に、僕たちは慣れすぎてしまったのかもしれない。

 明日花と僕は手を繋ぎ、広がる道をただ歩く。

 明日花は、明日から入院だと言った。

 僕は涙を堪えた。そして無理して笑みを作った。

「なぁ、どこか遠くに行かないか? 病気のこともこの町のことも忘れて、どこか遠くへ」

「うん。いいよ」

 駅の改札をくぐり、電車に乗って都市へと向かった。

 車窓から見える風景が、田んぼからビルやマンションへと変わる。

 目的の駅に着いたら、まず最初に向かったのが映画館。恋愛映画を見るためだ。

「え、恋愛映画? 私はこっちのスリリングテラーっていうホラー映画がいいんだけど」

 ホラー映画は苦手だ。殺人鬼が快楽殺人をすることになんの意味があって、それを見せられている自分達は果たして有益なのか。ホラー映画は無駄なことが多い……っていう理由と単純に血が怖いというのもある。というかそれが九割ぐらい占めてる。

「なら、じゃんけんだ」

「いいわよ。最初はグー」


 殺人鬼は笑い、チェンソーを振り回している。

「うわぁぁぁあああ!?」

「ちょっとうるさい。今いいところなんだから」

 明日花に注意をうける僕。

 じゃんけんで負けた僕は、怪奇殺人をスクリーンで見せられている。怖すぎる。

 映画館を出ると、明日花は伸びをした。

「面白かったね」

「そうか? 俺は辛かったな」

「玲くんはビビりだね。やーい、ビビりビビりー!」

「その小学生みたいなおちょくりかたやめろ!」


 こんな楽しい時間が、ずっと続くと思っていた。

 でも違った。ずっとなんか、人生においてないんだから。

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