第7話
病室のベットで縫い物をしていた明日花。
「大丈夫か?」
「うん、ちょっと体調を崩しただけだから。すぐに退院できるから」
僕は苦笑した。
明日花はもう長くはない。果てるまでこの狭い病室で生活をしなくてはならないのだ。
そのことを明日花の母に聞いて、胸が苦しくなった。
「なぁ、お前の願いはなんだよ」
「……どうしたの?」
「いや、聞いてみたくなってさ」
「そう……なんだ。———私の願いは前に話した夢と同じ。生きること」
「……」
「生きることって難しいよね。どんだけ頑張っても、どんだけしがみついても寿命という運命には逆らえない」
言葉が重たく僕にのし掛かる。明日花の死への恐怖と絶望が、僕の肌に触れる。
日に日に体調をどんどん崩していって、それに伴い見慣れない機械や、心電計、酸素マスクなどが置かれるようになった。
会うたびにやつれているような気がす。る。僕は何もできない自分に歯痒さ覚えた。
そして雨の日に、明日花は人生の転換点を迎える。
雨の日———
病室、心電計の音が響く。
酸素マスクを装着をして、明日花は浅い呼吸をしていた。
「なぁ、明日花……。僕は、お前がいなくなるって思うと……寂しいんだよ」
その言葉に頷いたように見えたのだが、気のせいだった。
心電計がアラートを鳴らす。僕は急いでナースコールを押した。
すぐに看護師、医者が駆けつけて心臓マッサージを施す。
だが、明日花は助からなかった——。
明日花の親族の方が、思い思いに明日花に言葉をかける。
もう感情すらない明日花。だがつたりと涙を流していた。それに驚く。
「嘘でしょ……明日花。泣いてるなんて……」
「きっと天国で泣いているんだよ。あいつは」
僕は部屋から出て、廊下をひたすら歩いた。もう家に帰ろう、と思っていたからだ。
病院を出て、家路についた。
蝉の鳴き声。
真新しい自動販売機。
入道雲、そして真上を飛ぶ飛行機。
僕の夏は終わろうとしていた。
自宅に着くと、すぐに自分の部屋に篭った。
「玲、帰ってきたのならご飯食べちゃいなさい」
食事は喉を通らないだろう。食欲がないのだ。
大事な人を亡くした痛みは、とても辛いものだった。大好きな食事も、また、睡眠すら取ることができない。
寝られない夜を過ごす。苦しい。
たった一人、この世界で自分一人になったような感覚——孤独感を覚える。
———もし明日花が病気じゃなかったら。
———もしまた何でもない日常を明日花と共に歩むことが出来るのなら。
そんなありもしない妄想を働かせる。無駄なことだと分かってはいるが……妄想をやめられない。
気づけば朝になっていた。陽光がカーテン越しでもわかる。
僕は起き上がり、寝不足の重たい体を動かした。
そして玄関をあけて、長い散歩へと出かける。
ラムネと膵臓がん 大西元希 @seisyun0615
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