第6話 和解
家に帰宅する。夜の七時ごろであった。
「受験したいっていう奴がフラフラと何をしてたんだ」
「関係ないだろ」
父は嘆息した。その表情は初めて見るものだった。呆れ返るその姿は、印象的だった。
「どうせ女だろ」
「は?」
父は僕を座らせ、煙草を吸い始めた。
「俺もな、お前ぐらいの頃はよく出歩いていたよ。女ともたくさん遊んだ」
突然始まった昔話。俺は表情を引き攣らせながらも、内心興味があった。
「そのとき出会ったのがお母さんだよ。クラブで初々しく踊るのを見て一目惚れしたよ」
「そうなんだ」
「お母さんの手を取って、一晩中踊り明かしたよ」
父と母の馴れ初めを聞いたのは初めてだった。
「でだ、何が言いたいかというとその時その時を大切にしろ、ということだ。女と遊ぶのもいいかもしれない。だがな、大切なのはお前自信の将来だ。大学に行くのを許しちゃいないが、頑張り次第では考えてやってもいい」
「ありがとう」
父が腹を割って話をしてくれたのは何年ぶりだろうか。とても嬉しい。
「はい、玲、これあげる」
渡されたのは緑色のカード——臓器提供ドナーカードだ。
「どうしたの、これ」
「あなた、前に臓器提供について話してたでしょ。コンビニで見つけたから玲に渡そうと思って」
「うん」
そういえば一週間前に、臓器提供がテーマの映画を見ていたときに「ドナーカード、欲しいな」と独り言を漏らしていたのだ。映画の主人公の女の子と明日花を重ねてしまって、ただの映画として見れなかった。
「あなたのそういうところ、本当にすごいわね。映画の主人公に共感して、自分が何かできることはないかって考えて、臓器提供をやってみようと思えるんだから」
僕は苦笑する。親には明日花との出会いは話してはいない。今後も話すつもりもない。膵癌や病気の話を軽々しくするべきではないからだ。
じっとカードを見つめる。これで明日花は変われるのだろうか。
僕は息を切らしながらも、無我夢中で走った。
市立病院に着くと、待合で明日花の保護者と合流する。
明日花の症状が急激に悪化して、入院することになったのだ。
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