10、弱気

 ただ好きで始めたこと。結果が欲しくなったこと。それが手に入らないこと。それでも、続けること。

 目的や目標だったものがそうやって、夢になってゆく。そこまでの距離におののくことが、夢に成る入り口なのかも知れない。

「だから俺はビビってるし、自信満々でもない」

 君に言った筈の言葉が風に乗って俺に返って来る。誰と比べても意味がない、だけど自分では積み上げて来たその成果が、結果に繋がらなかった。何度だって打ちひしがれては、涙を拭いて立ち上がって、また挑んだ。何度だって。

「今日のあなたはとっても弱気だね」

 君はいつものように笑って、何でもないことを纏めて飲み込むみたいに、俺の眼を覗く。そうだよ、俺は弱気だよ。またダメだったんだ。子供にするみたいに、君は俺の頭を撫でる。

「しっかり落ち込みなよ。それがいいよ」

 俺は拗ねたみたいに丸くなって体から全部の溜め息を絞り出そうとする。でも何も出ない。敗北は溜め息にならない。俺は立ち上がる。背伸びをすれば新しいものが見えるか、見えない、座る。

「俺は、誰に求められもせずに、やっている。俺がやめたとしても誰も困らない」

 吐き出した言い訳は本当のことなのに、俺には嘘で、取り消して繕いたい、でも君はその霧が消える前に光を射す。

「そうだね。でも、私は応援してる。あなたが夢を叶えるって、信じてる」

 俺を撃ち抜くのに時間を要した。ゆっくりと咀嚼されるように俺の中に言葉が広がる。胸の中に輝く魔法の粉が降りかかって、そこにあった色味を全て塗り替える。

 君の顔を見詰める。君は変わらずにそこで微笑んでいる。

 君が信じてくれた。

 他のことは分からない。だけど真実なんて一つでいい。

 闘志が四肢にみなぎって、俺は拳を握る。夢に負けていた。押し潰されていた。敗北が積み重なる度に夢の重みが増していた。でも戦える。俺はもう戦える。今にも走り出したい。

「俺は」

 空には果てがなくても、俺の向かう場所は無限の先ではない。進めば、進んだだけ近付く。

「俺は、止まってる場合じゃない」

 君はやんわりと俺の勃発する情熱を吸い込んで、そっと抱くように声を返す。

「焦っちゃダメだよ。じっくり動こう」

 俺は頷くと、どう進もうか君に相談しよう、切迫する気持ちと同時に、もう少しだけこの感覚の中にいたい。

 君が信じてくれた。俺は夢に向かう。

 俺は空の果てを睨む。

 君が、同じものを見る。


(10、弱気、了)

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蛇姫のための十の小品 真花 @kawapsyc

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