「うう……」

 明が目を覚ますと部屋は薄暗かった。

 カーテンが開いており外は、外は日が落ちかけていた。

 手と足がガムテープでぐるぐるまきにされていて、ソファに座らされていた。

 隣を見ると、京子も手足を同じようにされており、まだ目を覚ましていなかった。

 するとキッチンの方から誰かが近づいてくる足音がした。

 ――アインス?いや、史帆か?

 「目が覚めたのね」

 史帆だった。

 振り向くことは出来ずに正面を向いたまま史帆に聞く。

 「お前、どうするつもりだ」

 「殺すに決まってるでしょ」

 表情は見えないがおそらく笑いながら言っている。

 「悪かった。俺が主犯だって公表するから許してくれ。頼む」

 史帆は声を震わせながら言った。

 「許さない。京吾は私の憧れだった。野球部でエースになるために練習がない日でもトレーニングをして過ごし、友達とも遊ばずに青春を犠牲にしてまで努力した。そして新チームになってようやくエースナンバーを貰えた。そんな京吾が、どうしていじめられなきゃいけなかったの?」

 京子も起きて、自分の状況を確認した。

 「……なんなのこれ」

 後ろを振り向くと包丁を両手で握りしめて涙を流している史帆の姿があった。

 「史帆、何する気……」

 史帆の目がぎろりと京子に向けられた。

 「殺す」

 京子は青ざめた。

 「いや!やめて!」

 「あんたたち、京吾がなんで野球ベルトで首を吊ったのか知ってる?」

 「はあ?んなもんしらねえよ。それしかなかったんだろ」

 明は苛立ったように言った。

 「ちがう!それほど野球が好きだったからよ。だよね?史帆」

 京子は自分だけでも助けてくれと言わんばかりに史帆を見つめた。

 「そう。京子、なんでそれを思いつけるのにイジメたの?あんたが言えばクラスのひとたちもやめたかもしれいじゃない」

 史帆の目つきはきつくなる一方だ。

 「もう京吾はいない。あんたたちを許さない」

 そう言うと史帆は明の頭を鷲掴みし首を傾け、包丁を首に当てた。

 「謝って。京吾に」

 「ひいっ……。ごめんなさい」

 次の瞬間、血しぶきが上がり、返り血が史帆と京子の顔を真っ赤に染めた。

 明は傾けられた頭の方へと倒れた。

 その姿を見ながら史帆は笑い出した。

 笑顔はすぐに消え、京子へ視線を移した。

 「お願い。やめて。お願い……」

 京子は臆しながら首を横に振った。

 「あんたたちは、やめてほしいって京吾の願いを聞いたの?言わずとも普通はわかることなんじゃないの?」

 何も言えなくなった京子の前に移動した。

 「やめて……やめて」

 「ううっ……!」

 鈍い感覚とともに包丁が京子の胸に突き刺さった。

 心臓は突いていないようだ。

 「はふぅ、はふぅ……」

 京子は声にならない息を漏らしている。

 「た、助けて……」

 史帆は胸から包丁を抜き取り、すぐさま右から左へと振り払った。

 首から右へ血しぶきが上がり、かくっと首が前に折れた。

 京子は座ったまま死んだ。

 「はあ、はあ、はあ……」

 史帆の息は荒かった。

 この一か月、溜まりに溜まった怒りを解消できて興奮ていたのだ。

 不気味な笑みを浮かべながら史帆は言った。

 「京吾、私も今からそっちへ行くからね」

 包丁を首に当てた瞬間、リビングの扉が開いた。

 「おめでとう。君の勝ち」

 暗くて良く見えないが、声には聞き覚えがあった。

 「京吾?」

 黒い影が近づくと、そこには京吾に似た男が立っていた。


 史帆は京吾が亡くなってからも、ラインを送り続けていた。

 そんなある日、返事が返って来た。

 『あいつらを許すな』

 『京吾なの?』

 『京吾の兄です』

 そこから作戦を立てた。

 『クラスの何かで一番の人たちを集める。そいつらがいじめの主犯だから』

 『そうだね。弟が一番を取るためにどれだけ努力したのか、その努力を踏みにじったやつらを許さない』

 島も船も祖父のものだと言う。

 決行の日、船を運転していた人は彼だった。しかし帽子とサングラスで顔をよく見れなかった。

 史帆は彼とラインでやり取りをしただけで顔は知らなかった。


 「いいや、俺は京吾の双子の兄、啓介。高校は違うから知らなかったでしょ」

 一卵性の双子だという彼は声も顔も容姿も京吾にそっくりだった。

 史帆の目からは涙が溢れた。

 憧れてた、好きだった彼が目の前にいる気がしたから。

 「弟のためにありがとう」

 そういうと啓介はポケットからナイフを取り出し、首を切った。

 「京吾……京吾!」

 兄だと聞いても、顔が同じなのだから史帆には京吾にしか思えなかった。

 倒れた啓介のもとへ行き、横顔を見つめた。涙が啓介の赤く染まった頬に数滴落ちる。

 「また死んだ……京吾……」

 史帆は右手に持った血まみれの包丁を自分に向け、勢いよく胸に刺した。

 痛みは感じなか。

 翌日、彼らの遺体は啓介の帰りが遅い母が部屋の書置きを見つけて通報したことにより発見された。

 啓介は『おじいちゃんの島に行ってくる。今までありがとう』と書置きをして島へ向かったらしい。

 警察の調べによると、カップ麺には致死量の農薬、水には全てに睡眠薬が入っており、録画された監視カメラには、眠らされた由紀の首を切っている史帆の姿が映っていたという。

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Death Island 汐川ヒロマサ @shiokawahiromasa

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