第9話

 二ヶ月が過ぎた。

 そろそろ、返済が終えると告げられた。

「ほんとう?」

 私は、やっと男から解放されると嬉しくなった。彼に抱きつきたかった。でも、後ろ手に縄で括られていて無理だった。縛られると不便だ。表現がリアルにできない。もどかしい。

「今日は、要望はないの?」

 彼は、猿ぐつわをする、そう言った。

「それだけ?」

 何を言われるのか、内心怖かった私は、拍子抜けした。エスカレートする要望、とんでもないことが飛び出してもおかしくはない。それが何なのか、私に分からないけど。

 私は、猿ぐつわをされて、地下牢で男を待った。

 まもなく、男が下りてきた。でも、一人ではなかった。二人のこれも男が後ろからついてきた。

「運び出せ」

 声が耳に届いた。言われた二人の男が、私の居る牢内に入ってきた。大きなトランクを持って。

「ううう」 

 猿ぐつわの中で声を立てた。でも、きつく口を塞がれ、頬がくびれて声にならなかった。

 私の見ている前で、トランクが開けられた。

「ううう」

 何かを感じて呻いた。けど、何もできない。布が口を塞ぐ。鼻が、きつい臭いを吸い込んだ。まもなく、私は気を失った。


 どうしてこんなことになったのか、私にはわからない。

 目を覚ますと、あの地下室ではなかった。しかも、今、私が入っているのは、頭の上も、四方もすべて鉄格子。床が鉄板の檻だった。

「目が覚めたようだね」

 彼ではない、私が嫌いなあの男が私を檻の外から見ていた。

「窮屈だろうけど少しの間、辛坊するんだ。まもなく、地下室に広い牢屋が完成する。そうしたらそっちに移ろう」

「彼はどこですか?」

 私は、きょとんとして訊いた。

「彼はいないよ。今日からは、ぼくがおまえのご主人さまだ」

 言われた。 

 うそでしょ?

 探るように口にした。

「ほんとうさ。彼には二度と会えない。ここでぼくと暮らすんだ、一生ね」

 どうして!?

「彼が、おまえをぼくに譲ったのさ。飽きたからもらってくれと言ってね」

 そんな!?

 男への借金は、返し終えたという。ただ、彼は、私を抱く気になれない、熱がすっかり冷めてしまったと言うのだ。

「もらってくれたら助かる」

 私の知らないやり取りを聞かされ、愕然とした。 

 私の気持ちはどうなるの?

「奴隷に気持ちは必要ないだろう?」

 足掻いた。

 私はものじゃない!

 足掻いた。足掻いたが、どうにもならなかった。逃げることも叶わなかった。

 毎日、男のおもちゃにされて私は暮らした。

 究極なエスカレートだった。 

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私を地下室に連れて行って 沼田くん @04920268

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