最終話 レクリオン王国

 七度目の交戦の後、ディル家の当主ゲネウスらしき者が遺体で発見された。背中の袈裟懸けの傷が致命傷になっていた。部下に見捨てられて置いてけぼりにされたところを、誰かに背中を斬られたのだろう。

 正直、もっと精悍な男を想像していたが、実際は青白い顔の神経質そうな男だった。これがドワーフ族の末裔……。


「本当にこいつがゲネウスなのか? メガメーデ」


「間違いありません」


 メガメーデはディル家の私兵時代にゲネウスを見て知っているらしかった。


 俺たちは当主を討ち取った後も追撃を止めずにアンテドン川を渡って南レクリオンに進入し、そのままの勢いでもってディル家の本拠があるブラシアの町を包囲した。



 翌日、ペロエの町の商工ギルドの仲介で、ブラシアの町の町議会は降伏勧告に応じて開城し、俺たちは町へと入城した。

 町の北西部にあるディル家の屋敷はもぬけの殻だった。どうやら持てるだけの財産を持ってアスクレ山地に逃げ込んだようだ。ブラシアの町長によると、ディル家は山地のどこかにいざという時のために食料を備蓄している隠れ家をもっているのだとか。


 俺たちはディル家の屋敷を接収し、当面はここを王国の拠点にすることにした。そして国名をレクリオン王国に改めて、帝国に承認を求める使節を派遣した。



 一か月後、帝国によってレクリオン王国は正式な王国として承認され、俺はそのレクリオン王国の正式な国王となったのである。


 それから数日の後、ついにディル家から降伏の使者が送られて来た。王宮として使われている元ディル家の屋敷の謁見の間でこれを引見する。

 使者は若い女の子だった。

 ゲネウスの腹違いの妹らしい。しかし、これが物凄くカワイイ。


「彼らも反省しているようだし、今後は平民としてレクリオンで生きることを許したらどうだろうか?」


 俺は皆に言った。この娘は近い将来に作る予定の俺のハーレムに絶対に欲しい逸材だと思ったからだ。


「なりません。陛下」


 メガメーデがいささか強い口調で俺をとがめた。彼女は公式の場では俺のことを陛下と呼ぶようになっている。ちなみに彼女の肩書は今や大将軍だ。


「魔物を引きいれた罪により、ディル家は北レクリオンの民から深く怨まれています。彼らを許すようなことをすれば、民の恨みの矛先が我らのほうに向く可能性があります。

ここはディル家の罪状を公に明らかにし、一族すべての者を斬首に処するのが適切かと存じます」


 メガメーデの言葉に参列している他の連中も一様に頷いた。皆も同じ意見らしい。

 彼女のいうことはもっともだった。メガメーデはいつも正しいことを言う。それは分かっている。

 でも娘は怯えていた。その様子もカワイかった。

 もったいない。実にもったいない。

 俺はごほんと軽く咳払いしたあと、軽く居住まいを整えてから言葉を発した。


「メガメーデ。いや大将軍。今はまだ魔物の襲来と被害の余韻が残っているからな。その興奮もあり、住民たちはディル家への報復を強く求めているかもしれない。

しかしな、メガメーデ。いずれは民の気持ちも落ち着くことだろう。

落ち着いてから思い返せば、女子供も含めてディル家の者を皆殺しにしたという記憶は、皆にとっても思い出したくないような凄惨な記憶に変るのではないか。

後々になってそのことが、王国の歴史に暗い影を落とすことにならないだろうか」


 メガメーデの眉間に深い皺が刻まれた。

 怒るかな。怒るかな。怖いっ……。


 しかしメガメーデは怒るのではなく俺の前に跪いた。そして顔を上げて言った。


「さすがは旦那様、いえ、陛下。そのような深いお考えでいらしたとは私の考えが至りませんでした。仰せのままにいたしましょう」


 メガメーデは感激の涙を流し、それにつられたのか他の連中も俺の言葉にオオーッと感嘆の声をあげた。

 いや、本音を言うとカワイイから殺したくないっていうだけなんだが、そんなに感激されると、この娘を俺にくれとは言い出しにくい。

 思いがけず俺の評価が高まってしまったが、今更ハーレムを作りたいとか言えない雰囲気になってしまった。


 後で聞いた話ではディル家のこの美少女は、アスクレ山地にあるディル家が代々保護してきた神殿に入り、巫女として生活を送ることになったそうな。



 こうしてレクリオンの統一は完了され、俺は名実ともに王となったわけだが、それで何かいいことがあるかというと特にない。

 むしろ窮屈になっただけだ。

 娼館はもちろん、女の子がいるような飲み屋にも大っぴらに遊びに行けなくなったのだ。 

 一度だけゾラの町まで足を延ばしてこっそりエッチなお店に行ってみたら、宰相バルカンの名において、店に俺の手配書が配られていて出禁にされていた。

 初めて行った店で出禁にされてるという理不尽。

 そのくせバルカンは気楽に遊んでやがる。バルカンの野郎は自分が自由に遊ぶための隠れ蓑として俺を利用するきらいがあった。

 メガメーデからすると、バルカンは俺を邪悪の道に導く不逞の輩らしいが、どっちの道を選んでも俺は遊べないという全く夢のない事態だ。


 それならいっそ、この二人のどちらかに王位を押し付け、俺は引退してどこかでスローライフでもしてやりたいところだが、二人の仲が悪いのがどうにもまずい。

 どっちかが王になれば、もう一人は不満分子になってその周りにも人が集まるだろう。

 それでは王国が分裂してしまう。

 結局、俺が王で居続けるしかなかった。


 いっそ暴君になって天まで届きそうな塔でも建ててやろうか。とりあえず現実的なところで三階建て魔動車でも作ろうかな。

 そのようなことを考えていると、テオフィリアが俺の部屋にやってきて「また調子に乗ってる」と言いながら、いつものように俺の膝の上に座った。


「ディル家の人たちを許してあげたんだって」


「うん」


「それは大変いいことをしたと思うわ」


「そうかい? うふふ」


 俺は彼女に褒められるのが大好きだ。


「でも、あの子が美人だったからでしょ?」


「ギクッ」


「忘れてはだめよ。トモくんは私以外の女の子の裸を一生見れないんだから」


「その約束はまだ生きてるの?」


「当然」


 彼女は俺の首に腕を回しながら言った。



———Fin———





お読みいただきありがとうございました。

これで完結となります。

たくさんの評価、ご感想、レビューをありがとうございました。とても励みになりました。






 最後に、サブキャラの後日談をちょっとだけ


 カサンドラ 王国の侍従長として権力をふるうようになる。一見、人当たり良さそうだが実は結構陰険だと宮廷の者たちには恐れられているらしい。


 アミュモネ 一年後、ペロエの町の町長となり町の経済を大いに発展させた。町長時代にコロイボスと結婚。


 コロイボス ペロエの町の副町長として長い間アミュモネを支える。



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おっさんとホットドッグカーによる異世界征服記 まなT @manat2

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