最終話

 テツヤにはやり残したことが一個ある。

 男女にとっては大切な儀式のひとつ。


 ずばり告白。


 まだやっていないのだ。

 前回は中身がマナカだったというだけで、好意のベクトルはレイの方を向いていた。


 ちゃんと告白したい。

 正式にOKをもらいたい。


 何を今さら、とレイやマナカに笑われるかもしれない。

 親密になって1ヶ月くらい経つし、お互いの好き感情はとっくに打ち明けているのだから。


 迷惑がられるだろうか?

 それとも喜んでくれるか?


 相談できる相手はレイしかいないので、こっそりお昼に質問したところ、


「マナカならまず間違いなく喜ぶでしょうね」


 と返された。


「プレゼントを渡したいんだ。なにかアイディアってある?」

「う〜ん、プレゼントかぁ〜」

「必要ないものを渡しても気まずいだろう。マナカさんが欲しがっているもの、教えてくれると助かる」

「キスでいいんじゃないの? マナカ、初キス欲しがっていたわよ」

「あのね……初キスを妨害した張本人がそれをいう?」

「くっくっく」


 レイは魔女みたいに低く笑った。


 イヤリングがいいのでは? と提案された。

 マナカはイヤリングを持っているけれども、けっこう昔に買ったやつで、そろそろ新しいのを買おうかな、と発言をしていたらしい。


 なるほど。

 イヤリングならお手頃だ。

 マナカも受け取りやすいというわけか。


 テツヤは女性用アクセサリーに関する知識がゼロなので、通販サイトへアクセスして、マナカに似合いそうなやつを選んでもらう。


「こういうやつよ」


 レイがタッチする先には、ピンク色の花飾りがついたイヤリングが写っている。


「大丈夫かな? 子どもっぽいとかいって怒らない?」

「いいのよ。あの子、子どもっぽいのが好きだから」

「あはは……」


 片割れともいうべきレイが断言するなら間違いない。


「でも、レイさんは大人っぽいアクセサリーが似合うよね。双子なのに、なんで差が出るのかな?」

「表情? しぐさ? 歩くスピード? そういう後天的な部分が違うのよ。あの子、すぐ脇見するし、目を離したら迷子になるし……」

「なるほど」


 これでプレゼントは決まった。

 あとは景色がきれいな場所へ出かけるだけ。


 海が見える公園、もしくは港のレトロな建物にしよう。

 思い出の場所と呼ぶのに相応ふさわしいはず。


 そして当日。

 降水確率ゼロの日を選んで2人は遠出した。


 この日のマナカは気合を入れておしゃれしているのが一目瞭然だった。

 唇をぺろりと舐める動作が思わせぶりで、テツヤの胸をやけに熱くさせる。


 かわいい……。

 小学生みたいな感想しか出てこず自己嫌悪する。


 電車を降りて、きれいな街並みを散策する。

 観光スポットをいくつか巡り、カフェで一息ついたとき、テツヤはアクセサリーの箱を差し出した。


「ものすごく今さらの話なのだけれども……」


 テツヤの改まった態度に気づいたマナカがハッとする。


「俺と正式に付き合ってほしい。なし崩し的な感じじゃなくて。そういう意味で、マナカさんに告白」

「やだ〜。びっくりした〜」

「ん? なんだと思ったの?」

「プロポーズで指輪を渡されるのかと……」


 これにはテツヤも苦笑するしかない。


「それはまだ先かな」


 マナカにイヤリングをつけてあげた。

 ピンク色の花弁が太陽の光を吸い込んで淡く輝いている。


「それで? 返答は?」

「ありがとう。とっても嬉しい」


 ただし、条件をつけられた。


「テツヤくんの家にいきたい」

「はぁ……俺の家に?」

「うん、テツヤくんのお母さんに会うの。ちゃんとあいさつするの。テツヤくんとお付き合いしています、織部マナカと申します、と」

「まいったな。うちの母が狂喜乱舞しそう」


 ケーキでも買っていって、お茶をするのがベターだろう。


「テツヤくんのお母さんってどんな人? テツヤくんに似ている?」

「そんなに似ていない。母いわく、俺は父さん似らしい。俺とは真逆っていえば、だいたいの性格は伝わるかな」

「へぇ〜、明るくてお茶目な感じかな」

「そうだね」


 生まれたばかりのカップルを祝福するように、沖合から汽笛の音色が響いてくる。


「だったら、今日会いにいく? 俺から母に連絡するけれども」

「え、いいの?」

「もちろん。今日のマナカさん、かわいいから。今日のマナカさんを見せたい」

「あぅあぅ……」


 マナカは照れながら目をかかる前髪をいじった。


「テツヤくんは口下手っぽいくせに、たまに嬉しいことをいうから反則」


 その時、マナカの携帯が揺れた。

 レイからメッセージが届いたらしい。

 唇に手を当てて笑っている。


「なんて送られてきたの?」

「秘密です」

「えぇ……」

「嬉しいけれども小恥ずかしいから、テツヤくんには見せられない内容なのです」

「ますます気になるな」


 テツヤの携帯も揺れた。

 こっちもレイからのメッセージ。


 ディスプレイにはたった二文字だけ、


『キス』


 と表示されており、氷帝と呼ばれるレイらしい簡潔さだな、とテツヤは胸の中でつぶやいた。




《作者コメント:2021/07/21》

読了感謝です!

夏だし暑いしクールな女の子を書けて満足です。

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氷帝に告ったつもりが、双子の妹の愛帝に求愛してしまった ゆで魂 @yudetama

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