まだこの物語に浸っていたいのに、読了してしまった……

主人公の夢叶(ムト)は多感な中学1年生の女の子。少々 変わったお名前ですよね。
ムトは自身の名前が好きだと思っていますが、周囲の人は自己紹介の際「ムトだって」なんて囁きます。いくら自分が「良い」と思っていても、そんな反応をされると気分がよくないに決まっています。

過去「どうしてこんな名前をつけたの」と両親に訴えたこともありましたが――――これはムトが、自分という「魔道具」の名前に誇りを取り戻す物語なのかも?

タイトル通り彼女のご両親は「魔道具職人」です。ムトが両親から授かり使用しているお守りは身体強化や回復など、決して魔法というほど派手ではないけど便利には違いない、ちょっとした願いを叶える力をもつ代物。

ムトはそのちょっと便利なお守りを駆使して中学校生活を謳歌していたのですが、夏休みに入ると物語は思いもよらない展開に。
両親の知り合いだという「折春おじさん」が実は別世界の住人で、彼が世界を渡る際の力に巻き込まれて、ムトは異世界の「コルドリア」へ渡ってしまうのです。

彼女はコルドリアで様々な問題に巻き込まれ、なし崩し的に異世界人に協力する流れになるのですが――――もうこの、物語の核心たるコルドリア編はダメです。「良さ」が詰まり過ぎてて一生読んでいたい(笑)

ただ面白いだけでなく、本当に色々な事を考えさせられます。道具とは何か、ムトに秘められた才能とは……親と子の関係性、人と人との繋がりなどなど。
あれ? 私ファンタジー小説を読んでいたんじゃなかったっけ? なんかこのまま自己啓発しちゃいそうじゃない? ぐらいの勢いで深いんです。

日本人って「擬人化」という文化を好む習性がありますが、歴史を見ると「万物に八百万の神々が宿る」と言われていた大昔まで遡るらしいですね。このやかんにだって魂が宿るのだから、大事にしなきゃダメだよと。

作中 明確な――――喋ったり動いたりする――――擬人化表現はありませんが、私には魔道具が生きて意思を持っているように見えました。だから魔道具が壊れると、まるで人が亡くなったようで悲しかった……。

そして最後ムトのご両親に対する想いを発表するシーンがこれまた深い。確かに科学は魔法です、いいこと言うなあ……。

読後感は「子供の教育に良すぎるアニメ映画を1本見観わった」感じでしょうか。シアターで上映しててもおかしくない、というか何故 上映されていないのか。
終始 楽しませていただきました。しかしなんで読了しちゃうかなー、もう少しこの物語の余韻に浸ろうと思います。

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