最後の夏、最初の夏

 高校野球が始まると夏の終わりが始まったと感じます。

 青い空、赤い太陽、緑の芝生、黒く陽に焼けた選手、そして白い入道雲、ベース、白球。

 陽炎の立つマウンドから始まる、熱さを忘れているかのような一瞬の勝負は、時代が移り変わっても不変な価値観が存在することを教えてくれる。

 複雑なルール、攻守の切り替え、固定された多様な役割といった特異なスポーツであるはずなのに、特定の国、特に日本人の魂に深く根ざしている球技。

 学校生活やバッティングセンター、もちろんテレビ鑑賞などを通じて野球に触れた方もたくさんいらっしゃると思います。

 では、中学生の野球を描いている本作が、経験者じゃないと楽しめないか? と問われれば、そんなことはありません。
 野球を知らなくても、描き出される緻密な描写が、そこに生きているキャラの心情や息吹を教えてくれる。
 いつか歩いた夏の一日や、過ぎ去った青春を思い出すことができる。

 私にとってそれは郷愁にも似た、夏に描く原風景の一つでした。

 物語は中盤、大きな山を迎えています。
 彼らが辿る困難と努力の日々を一緒に歩んで行きたいと思います。


 高校野球が終わると、同時に夏も過ぎ去っていく。
 でも寂寥感に浸る必要はありません。

 本作を紐解けば、いつでもあの夏を繰り返せるのですから。