10

 二人で未明の新宿駅の中央線の始発に乗り込んだ。俺達は疲れていたからうとうとしながら電車の中でぽつぽつと途切れ途切れに会話を交わした。


 ―北海道とかええんちゃう?


 ―寒いの苦手なんだよな


 ―ほなら京都とか?


 ―京都は鹿が多いからいやだ、奴らは人間を舐めくさってる


 麻薙は呆れてまあええわ、とりあえず東京駅行ってから決めよ、と言った。


 肩を叩かれて起きると既に東京駅だった。麻薙は寝顔が無防備過ぎると言って俺をからかった。


 早朝の東京駅は人もまばらで、エキナカの店も開いていない。色とりどりの在来線の標識とチカチカ光る発車時刻。俺達は切符さえ買えばここから千葉でも東北でも関西でもどこへでも行けた。そんな他愛のないことすら俺は知らなかった。


「…新幹線乗ったってええ、在来線でノロノロ行って適当にその日の宿見つけて渡り歩いたってええ、レンタカーでもバイクでも自転車でも歩きだってええ…なあ…藤生さん」


 麻薙はそう言うと、電光掲示板の前で茫然と立ち尽くす俺をどこか悲しい顔で眺めていた。


「…だからアンタは、どこにも行けへんなんてそんなことはもう思わんでええ」


 何一つ解決したわけではない。そんなことは分かっていた。


 それでも死ぬまで俺達は生きれるはずだし、深夜明けのテンションでナチュラルハイだし、今この瞬間俺達はどこまでも自由だった。麻薙も似たような気持ちなのか俺に晴れやかで刹那的な笑顔を向けた。


 …とりあえず西にでも行くか。


 ~完~

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ファスター・アンダーグラウンド 藤原埼玉 @saitamafujiwara

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