第57話『決闘2』
そこからのライオネスの攻撃は容赦なかった。殴る蹴る突き飛ばすに加え爪攻撃に頭突きに噛みつき。ありとあらゆる手段で俺を仕留めに来たのだった。
しかし、俺には全ての攻撃に対しての耐性がある。ただし、受ける衝撃の痛みに対してだけは別である。自分の体の発する危険信号。耐性で弾き返した事への反作用。脳が揺らされ、内臓が変形し、筋肉が引っ張られる、それらが元に戻る際に悲鳴を上げる。俺はただひたすらにその痛みに耐えたのだった。
「いい加減、負けを認めやがれ!」
ライオネスが両手で俺の首を絞めながらそう叫ぶ。
だが、残念。俺には無呼吸にも耐性があるのだ。
「やなこった!」
「ちっ! 痛みは感じるじゃねえのかよ」
こいつ知っていやがった! 恐らく過去の勇者の文献などで知って対策を立てていたのだろう。最初から痛みで心を折って負けを認めさせるつもりだったのだ。だが俺はそんな事では負けはしない。
「知ってるか、死の恐怖の無い痛みってのは全て怒りに変換されるんだぜ」
「この野郎ー!」
俺はそのまま地面へと叩きつけられた。激しく地面を転がり闘技場の壁にめり込んだ。そこへ、空高く舞い上がったライオネスの蹴りが落ちて来る。ガラガラと音立てて壁が崩れていく。
ライオネスは俺の襟首を掴み瓦礫から引きずり出してきた。
そして、俺は目を見開いて驚いた。獣化である。俺を引きずり出したライオネスの体から見る見る黄金に輝く毛が生えてきたのだ。怒りが頂点に達した獣人は獣へと変化する。話には聞いていたが見るのは初めてだった。目を血走らせ牙をむき出しにした虎が襲い掛かってくる。
そこからの事はよく覚えていない。
ただ目を血走らせらした獣に殴られ蹴られ続けた。
気が付くと俺は半壊した闘技場の中央に立っていた。日の傾き具合からするともう夕方近い時刻だろう。目の前には息を切らし、半獣化したライオネスがゼイゼイと息を切らして立っている。俺はライオネスに向けて言い放った。
「どうした、もう仕舞いかよ」
「こ、この野郎……」
怒りに任せライオネスが右の拳を放つ。
力なく放った緩やかな右ストレートが空を切る。
俺はその拳を両手で掴み反転。腕を肩に背負った。
〝一本背負い〟
受け身を取る事も出来なくなったライオネスが見事に背中から地面に叩きつけられた。
「がっはっ!」
そして、俺はさらに言い放つ。
「どうした、負けを認めちまえ!」
「こ、こんな戦い、俺様は認めねえぞ……」
息も絶え絶えにライオネスがフラフラと立ち上がる。
「ああ、そうかよ。でもなこの戦いは負けなかった俺の勝ちなんだよ」
俺はライオネスに向けて駆けだした。そして大きく目の前で跳び上がり両脚で頭を挟み込んだ。そのままバク転の要領で体を捻る。
〝フランケンシュタイナー〟
俺の足に挟まれた頭に吊られ巨体であるライオネスの体が反転していく。
ズーンと大きな音を立ててライオネスは頭から地面へと突き刺さった。
「俺様は……」
そう呟きながらゆっくりとライオネスの体が倒れていく。そして、そのまま気を失った――。
俺は両の拳を天空へと突き上げて勝利の雄叫びを上げた。
「ウィ~~~~!!」
あれ? 歓声が起きない?
観客席の方へ目をやると、姫様たちは肩を寄せ合い、ウエスト・リーデはベンチで横になり眠っていた。ただコルトバンニの奴だけが目を見開き必死にノートにメモを取っていた。
こうして決闘に勝利した俺たちはライオネスを叩き起こして無理やり負けを認めさせ、戦いに参加しない事への言質を取った。
そして、一晩をエレインの町で過ごし翌朝、俺たちは一路、魔族の街アビゲイトへ向けて出発したのだった――。
「どうしましたナオヤさん。ボーとしてますよ」
オルトが俺の顔を下から覗き込みながらそう言った。
「ん? ああ、まあ……ちょっと昔の事を思いだしてたんだ。うん、エレインの町か、確かに懐かしいな……」
といっても俺からすれば約一年前の記憶である。そこまで懐かしい記憶というほどのものではない。
「そうですか。私もあのシーンは大好きですよ。特にラストの劣勢から逆転しての天空に拳を向けて〝勝利をわが手に〟と叫ぶシーンは感動ものです」
「……」
もちろん俺はそんな事は言ってない。ウィ~と叫んだだけだ。コルトの奴め嘘書きやがって……。さてはちゃんと聞いていなかったな。
「……まあ、いいや。でもエレインの町に着いたらまた闘技場遺跡でも見学しようか」
「あのー、言いにくいのですけど……」
「何だ?」
「エレインの闘技場遺跡は五十年ほど前の地揺れで跡形もなく崩れ去ったそうですよ」
「何だと……」
「今は跡地に記念碑が立ってるだけだそうですよ」
「……」
百年の歳月は無情である。俺の思い出の地さえ消し去ってしまうのだ。
まあ、俺とライオネスが散々破壊したことは黙っておこう。
昨日魔王を倒した俺は、今日また召喚されました! 永遠こころ @towakokoro
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