後編

 そしてカテリーナたちがいなくなって半年後、気が付けば貴族女性の多くが行方不明となる事態に発展した。

 貴族女性が減ったことにより、貴族御用達の服飾店、宝飾店、菓子店などが経営難で次々と閉店へ追い込まれ、経済的な打撃も受けた。


 国王はようやく本格的な調査に乗り出したが、消えた女性たちの共通点さえ見つけることが出来ず、頭を抱えていた。

 カテリーナの交遊関係から調べたのだが、該当しない女性も消えていたのだ。


 その様子を伺ってほくそ笑む王女が一人。彼女は王子の妹、ジークルーン。ジークルーンはカテリーナとその母エカチェリーナと結託し、以前から計画を立てていたのだ。

 王子によるカテリーナへの婚約破棄は、ただのきっかけに過ぎない。


 男性に暴力を振るわれている女性は耐えるしかなかった。女性からの離婚申請も出来ない。特に身分が高い男たちは、女性を自分を飾るアクセサリーか駒程度にしか考えていない者ばかりなのがこの国だ。

 その状況を憂いていた。


 兄にとってはただの婚約破棄のつもりだったのだろうが、私たちにとっては密やかなるクーデターの始まり。

 国王は女癖が非常に悪かった。そして、王妃は嫉妬深かった。


 国王は気に入った女性がいれば、強引にでも手に入れる。それだけの権力がこの国ではあるが、恨みを買わないわけではない。

 婚約していた女性、人の妻、娘。関係なくつまみ食いをしていた。身分が高い女性は結婚まで純潔が当たり前。不貞行為も許されない。


 王妃は国王の浮気を許せず、女性たちにその矛先を向けていた。国王であっても正式な妻は一人だけ。それとは別に、第一夫人から第五夫人までの五人の妻を持つことが許されていた。

 国王から特別な寵愛を受ける夫人や王妃に楯突いた夫人は消え去り、生まれた子どもは幼くして亡くなる。女好きな国王に対して、子どもが極端に少ない理由である。


 救貧院へ送られる女性や、深く傷付いた女性の自殺も頻繁に起こっていた。

 その為、協力者には事欠かなかった。愛する妻や婚約者、娘を失った者、傷付けられた者。彼らの情報網も加わり、私は助けて欲しい女性をカテリーナに知らせるだけでいい。


 裏で糸を引いている協力者のお陰で国内の混乱は長く続き、何の成果も得られなかった外交により、ヴァレントとの貿易協定は破棄。

 順調に経済や生活に大きな影響が出て来ていた。ヴァレントに協力者もいるし、経営が破綻した者たちや、貧しい人たちに被害が出過ぎないよう、商人の協力者や貴族の協力者もいる。


 愚かな国王は経済を一時的にでも回復させる思惑で、揉めていた王子とアンネリーネ、ユリアとの結婚式を雰囲気だけ盛大に執り行ったが、貧しい生活を強いられている民の反感を買っただけに終わった。

 結婚に伴い王太子となった王子に対する批判も止まらない。国王に対する暗殺が活発化し、王太子を暗殺、もしくは傀儡にしようとする動きも止まらない。


 その状況に国王は逃げた。一時的に法律を変更し、王位を王子ではなく残っていた王女ジークルーンに譲ると宣言した。

 国王は自分で指名しておきながら、女に国を治める能力があるとは微塵も思っていなかった。国中から集まるヘイトを女王に集中させ、失脚した暁には自分の息子が返り咲けばいい。そんな浅はかな考えだった。


 王子の正式な妻がアンネリーネのままでは貴族では無くなるので離縁させ、男爵家マリアへ婿入りさせた。それに伴いマリアの兄は家を追い出されたし、アンネリーネは救貧院行きになった。


 女王になったジークルーンは、持ち前の聡明さを発揮した。既に完全に敵対すると見られる人物は排除済み。協力者の協力を得て、ヴァレントとの貿易協定を再締結。

 エカチェリーナやカテリーナの件で、賠償金を請求され、女性に対する扱いを条件に複数付けられたが、それは事前に協議しておいたジークルーンへの援護射撃だ。


 これに周囲は黙らざるを得なかった。賠償金は元国王と元王妃、今は男爵になった元王子の私財や予算を充てた。

 更にジークルーンは男子相続しか認めない法律や男性優位な法律を撤廃。意識改革をはかるために、他にも女性を守る法律を複数制定した。幼いながらも完璧な書類を用意するジークルーンに周囲は驚いた。


 からくりは単純だ。ジークルーンが使用している執務室は国王が利用していた部屋。女性を連れ込む為の隠し部屋がある。

 そこを改装して、中にはきちんとした教育を受けていたエカチェリーナ、その知識を受け継いだカテリーナが補佐とし出勤していた。更に必要であれば、カテリーナが必要な知識人をあらゆる場所から転移魔法で連れて来ていたのだ。


 他にも妻や娘、婚約者を傷つけられた男性とその関係者、王妃に殺害された女性の関係者、愛する女性を自殺に追い込まれた男性たち。

 当主、嫡男、騎士、文官、商人など。あらゆる分野に協力者がいた。


 また、国内を混乱に陥れたとして、要職にいた者やカテリーナの冤罪に加担した多くの貴族を罰した。爵位を引き継ぐ者がおらず、貴族が減るかと思われたが、一部の家には消えた夫人や娘たちや救貧院へいた女性が戻って来た。

 エカチェリーナ、カテリーナもバルシュミーデ卿と嫡男の失脚と共に家へ戻った。


 女性は領地経営や政治に関することを勉強して来た訳では無かったので、全てが順風満帆とはいかなかったが、姿を消している間に、必要最低限の教育をエカチェリーナとカテリーナから受けていた。支援してくれる男性も複数いる。


 この国は、変革の時代を迎えた。ジークルーンは適齢期になると、ヴァレントから第三王子を婿に迎えた。

 ヴァレントによる占領、属国化などとも言われたが、二人の仲は良好で、ジークルーンは女王であり続けた。


 後の評価として、彼女たちはクーデターを成功させたと考える研究者が多い。単なるヴァレントの属国化とする研究者もいたが、史実として友好関係は深まったが属国化したような事実はないと言われることが多い。

 事実として、女性の社会進出が急速に進み、教育者不足からの学校建設、門戸を広く開いた為に国民全体の教育水準が上がったと言われている。


 現在の豊かな国の始まりになったというのは、研究者の共通認識となっている。

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婚約破棄のつもりが… 相澤 @aizawa9

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