中編

「あはははは!あの顔見た!?最高よね!!」

 馬車の中では一緒に退場した令嬢達が笑っている。


「私をなめすぎなのです。全ての情報が筒抜けでしたしね」

「それはカテリーナ様が能力を隠していたせいではありませんか」


「だって彼、優秀な妹に劣等感を抱いていたんですもの。それで私にも全く敵わないと知ったら、拗ねてしまいそうでしょう?面倒だわ」

「それもそうですわね」

「ああ、スッキリ致しましたわ!」


「…それは良かったですわ。ですが、本当に良かったのです?」

「ええ。もちろんですわ!」

「こんな女性にばかり不利な国に、興味などありませんわ」


「そうですか…。陛下たちが王都へ戻って来るには早くて一週間はかかるでしょうけれど、できるだけ早く荷造りをして頂戴ね」

「もう終わっていますわ」

 他の令嬢も勢いよく頷いている。


「あらあら。でしたら明日の朝から順に迎えに行きますわね。彼らが思考を取り戻す前に行動しましょう。書き置きも忘れずにね」


 思考を取り戻した王子たちが訪れたのは、カテリーナの転移魔法によって令嬢たちが国から姿を消した後だった。殿下が言い渡した罪状に従いますと書かれた書き置きを残して、本人以外の一部令嬢の母や姉、妹も一緒に姿を消した。


 カテリーナが転移魔法を使えることを知らない王子たちは、国境を封鎖して待ち構えたが、当然彼女たちが国境を訪れることはなかった。


 外交から戻った陛下、妃殿下、カテリーナの父は、直ちにカテリーナたちの捜索を開始したが、全く行方は掴めなかった。

 当然ではあるが、カテリーナの罪は全て撤回となった。その程度で国外追放、処刑を行っていたら、国から貴族が居なくなってしまう。


 カテリーナが置いていった影の報告書により、カテリーナの器物損壊、窃盗罪、傷害罪が冤罪であることも証明されてしまった。

 嫌がらせの首謀者は、宰相子息の婚約者アンネリーネだった。真実を知った宰相令息は、アンネリーネとの婚約を直ちに破棄した。


 そもそも何故カテリーナが王子の婚約者になっていたのか。それは母が隣国ヴァレントの王女だったから。

 ヴァレントと貿易協定を結ぶ際、友好の証として、両国の王女がそれぞれの国に嫁いだのだ。


 その王女の娘を冤罪で国外追放。普通に考えれば両国の関係悪化必至である。そこまでの考えに至らない程、この国では女性の地位が低いのだ。

 ただ、ヴァレントはこの国ほど女性の地位は低く扱われていない。外交に携わっている人はそれを知っている。


 バルシュミーデ侯爵は外交団を組んで至急ヴァレントへ向かった。表向きは事情説明とお詫びに駆け付ける体だが、娘と共に妻も消えていることから、ヴァレントが匿っている可能性が高いと考えていた。

 そのしっぽを掴んで、有耶無耶に持ち込みたいのが本音。貿易協定の破棄だけは困る。外交官に多数の諜報員を紛れ込ませ、更に長期滞在の用意もして出立した。

 息子には自分が不在の間、絶対に余計なことはするなと釘を刺しておいた。


 現在、陛下の子どもに王子は一人しかいない。直系男子が国を継ぐことと法律で決まっているので、王子はヴァレント向けに謹慎処分は受けたものの、予定通り婚姻後に王太子となるのは確実。

 そもそも陛下は、カテリーナとの婚約破棄には激怒していたものの、それはそのままカテリーナと結婚し、マリアも妻にすれば良かったのだという部分で激怒していた。わざわざどちらか一方を選ぶ必要など無かったのだ。


 ある意味女性に対しては、やり方はともかく、あの王子の方が誠実だったという残念な事実。

 バルシュミーデ侯爵派らは、ここぞとばかりに反発し、様々な思惑も絡み合い国は大混乱に陥った。


 王子が勝手に正式な王子妃としてマリアと結んでいた婚約を、陛下は問答無用で破棄。当主が不在の間に結ばれた養子縁組も、白紙となった。

 年頃の令嬢には既に婚約者がいるので、王子の婚約者は空いているアンネリーネとし、マリアは妾でという話になった。けれど、王子とアンネリーネはこれに反発し、大いにもめている。


 混乱に拍車をかけたのは、側近候補たちの婚約者選びだった。王子が謹慎処分だけなので、後継者だった者は後継者のまま。後継者に妻は必須。

 恩を売るいい機会と考えた一部貴族が、娘の婚約を破棄して側近候補たちに差し出した。

 彼らがマリアに傾倒していても、自分の娘が子どもを産めば、その子が後継者になる。それで充分だと考えた。


 側近候補たちは、その中からマリアへの嫌がらせに荷担していない令嬢を選んだ。差し出された五人の内、全員が姿を消した。一緒に姉や妹、夫人までもが姿を消した家もあった。


 五人はマリアへ嫌がらせをしていない、つまりはどちらかと言えばカテリーナたちと関わりがあった令嬢たち。

 これはかなりの話題になった。権力目当てに娘を差し出しても、本人が消えてしまってはどうにもならない。捜索しても手がかりさえ掴めない。カテリーナたちと同じ状況だ。

 次に娘を差し出した所も同じ状況に陥った。権力目当ての貴族は駒を失うことを恐れ、誰も差し出そうとしなくなった。


 婚約者選びは難航を極めた。彼らは結局、権力に任せて十歳にも満たない少女と無理矢理婚約を結んだ。すると、その少女たちも消えていった。

 次男がいる騎士団長は、次男の子どもを後継ぎにすることにして、早々に嫡男の婚約者選びを諦めた。王子の手前、今すぐ嫡男を廃嫡には出来ないが、いずれはそうするつもりである。

 公爵家次男も早々に諦めて、マリアに嫌がらせをしていた令嬢への婿入りが決まった。彼女は消えなかった。


 失踪事件の裏にはカテリーナがいると噂され、女性たちの間では困ったときはカテリーナ様に祈れば救われるとまで言われた。実際に日々女性が姿を消すことが日常になっていった。

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