濃厚すぎるトンチキの原液

 スラム化した街から違法薬物を排除せんと、ただひとり奮闘する孤独なラッパー・アキハルの戦いの物語。
 バトルもののサイバーパンクSFです。あるいはパルプ小説。というかもう読む狂気そのもの。要は文体そのものに独特の味わいのあるコメディ作品、と、そんな要約でいいのでしょうか……どうとも説明の難しいお話。もう本文読んだ方が早いので読めばいいと思います。
 何がすごいってもう、勢いというかノリというか、全編にわたって異常です。本当に異常。
 正気に戻る瞬間みたいなのがない。完全にトンチキだけでできたお話……かと思いきや、でもストーリーの構造そのものは結構普通にバトルものしてたりと、絶妙なバランスで成り立っているのが侮れません。ここまでめちゃくちゃなのに物語として成立していることの凄味。一周回って突き抜けた先で釣り合う感じ。
 その存外にまともな部分、主人公の抱えた将来の展望みたいな部分が好き。
 薬物を駆逐した街で、ミュージシャンとしてやっていくこと。確かに、お客となるべき人が全員酩酊状態では、永遠に叶えようのない夢。それゆえの戦い、というのがなんだ格好よく、でも読んでいる最中は正直「そんなことはどうでもいい」と思えてしまうくらいにはトンチキな、なんかもうものすごいお話でした。すごい。凄味しかない。みんな逃げて!