アキハル the legendary true poppa

神崎 ひなた

1.トゥルー・ライブ

 ヤスは最高にtrueトゥルーなドラマーだったが、LIVEの当日――つまり今日になってヘロインの禁断症状が出たらしく『天国ヘブンズゲート覚醒えちまってよォ! ちょっとドライブってくるから笑』とLIMEがあったきり音沙汰がない。どうやら戦乙女アバズレどもの抱き心地がよほど気に入ったらしい。二度と戻ってくることは無いだろう。最後の最期にとんだfakeフェイク野郎になっちまったな、ヤス。


「メランコリーだゼ」


 ルーシー・ストライクに火を点けて、肺いっぱいに吸い込む。二本ダブルだ。煙草は一度に二本吸うダブルでと決めている。下らないジンクスに過ぎないが、俺にとっては最高のtrueトゥルー――いや。ママの味、かな。

 いずれにせよ、ヒートアップした脳に最高のインスピレーションをもたらしてくれる癒しの芳香アロマセラピーは他に知らない。俺は壊れたペンダントブロウクン・アミュレットを握りしめて祈りを捧げる。


 ――ヤス、お前はドライブっちまった。

 だが俺は独りソロプレイでも歌わなくちゃいけないんだ。


This is going my way

それが俺の歩く道なのだから。


「――時は満ちた」


 タバコを二本ダブルで踏みにじって“覚醒エボリューション”する。

 ニューロンの爆ぜる閃きに耳を澄ませつつ、恭しくも荘厳な足取りムーンウォークでステージへと上がった。スポットライトが真実トゥルーの俺を照らしだす。そして愛すべきバカオーディエンスたちが割れんばかりの歓声で俺を出迎え――なかった。


「……オイオイ、酷い有様ヘル・オン・アースじゃねぇか」


 三十人ほどが収容できる観客席には、誰一人として存在しなかった。

 いや、失敬――これは表現としてfakeフェイク

 より正確トゥルーを求めるなら、は誰一人として存在しなかった。そういうことだ。


 分かるだろ? そう、ゴリラだよ。


 ゴリラ――ゴリラとはつまり――比喩メタファーではない、本物トゥルーのゴリラだ。

 想像してほしいイマジネイションプリーズ腕組クロスアーム、そして仁王立ちスタンディングでそびえ立つゴリラを。俺の目の前にいる黒い雄々しい獣ワイルド・アニマルは、想像イマジネイションよりもさらにゴツく、そしてタフだ。


 本物トゥルーだね。

 天国ヘブンズゲート戦乙女アバズレよりも、ずっと。


 ゴリラの瞳で瞬く光は、あまりにも無垢イノセント虚無ヴォイドだった。一瞬、吸い込まれるような錯覚を覚えたが――安心しな、真の男トゥルー・ガイは吞まれない。まずは冷静クールに周囲を見渡す。状況判断だ。


 どうやら会場ダンスホールはすでに、尋常ではなく血生臭く、そして重圧ブラッティ・アンド・グラビティ雰囲気アトモスフィア蹂躙オーヴァーランされているらしい。


 黒服にサングラスオールドファッション。絵に描いたようなイカつい連中が、辛うじて原型をとどめた肉塊になっいき〇りステーキめいて転がっている。陥没した顔面、真っ二つに折れた上半身、風穴の開いた胴体。

 死体の山、被害者ども。だがどうせ、ヤの付く家業に邁進ゴー・イズ・ゴーしてきた連中だ。今日が因果応報の日ラストジャッジメントデイでなければ、いつか俺が殺していた連中だ。安らかに死ぬがいい。俺は壊れたペンダントを握り、どことも知れない大麻の神にクソったれの祈りを放り棄てた。

 さて、俺はダニーボーイのために鎮魂歌レクイエムを歌えるほど器用な人間ではない。ただ、どんな時も湧き上がってくる本心トゥルーだけは心の奥底に留めておけサイレンスのままではいられない。


 T-POPトゥルー・ポップ

 生きて尚、行き場を失った連中に届きますように。


「はいどーも、アキハルです。ま、俺はね? なんでゴリラがこんなトコにいるか知らねぇけど? なんかヤケに哀しい顔してっからネ? まぁ俺の歌でも聴いてブレイブ・ソウルを震わせてほしい。そう思う次第なワケ」


 俺はマイクのスイッチを入れて薄っぺらい上着を脱ぎ捨てた。

 そして、ギターを構える。


「――天上の調べヘブンリー・ゴスペルよりも最高にハイな詩ハレルヤなソング幻聴きかせてやっから」


 死んだ目の観客が一人でもいるなら、そこが俺のダンスホールだ。死体など構わず、めちゃくちゃデカい声ソウル・オブ・サウンド放出フルバーストした。


「メランコリーにサンダル持ってかれちまったDAYSッッッ!! サンダル即ちこれサンダルフォンwikiにも書いてるこれ常識!! 本心トゥルーを隠した幽閉牢ラビリンスの場所、ヤツなら知ってるこれ博識! だがサタンは甘い声で囁きLEDを噛み砕く……! 初めてのキスはヘロイン味! 二回目のキスはコカイン味!! サンダルフォンはもういない! だからもう俺は止まらねぇ!! 誰でもいい!! 頼むから俺を好きになれ!! 誰でもいいから好きになれ!! お前!! お前も好きになれ!! 本当の言葉で愛を囁いてくれトゥルー・ウィスパー・ラブ・フレーズ!! ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!! メランコリーにサンダルフォン持ってかれちまったDAYSッッッ!!」


 気が付くと、ゴリラは死体の上でドラミングしていた――それはただのドラミングではない。魂のドラミングソウル・オブ・ビートだ。目を見れば分かる。無垢さイノセントなど微塵も感じさせない、震えるほどにヒートな眼差しバイヴ・アンド・バーニング・アイズ


 ――届いたんだな、俺の歌ギフテッド・マイ・ソング


「いいサウンド奏でるじゃねぇか! 今日は終電よりもさらに夜の先トゥルーナイトフィーバーまで行こうぜ、類人猿さんよォォォォォォ!!!!」


「ドォォォォォォォォォォォォアッッッ!!」


 ギター、シャウト、ドラミング。

 会場ダンスホールに響くアツいLIVEトゥルー・モーメントは、黎明が空を染めるデイブレイク・フロンティアまで続いたのだった。


 

 





 

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