2.フェイク・野郎ども

 薬物中毒オーバードーズ不審死ミステリー行方不明ミッシング。この街の死因トップスリーである。


 災魂さいたま県、太陽愚裏羅サン・グリラ自治区じちく。文字どおりクズにとっての楽園で、大麻、ヘロイン、LSD、コカインが自販機で買える夢の国アンダーグラウンドだ。


 薄汚れた港街を歩く姿はクズばかり――黒服にサングラスオールドファッションはもちろん、全裸中年男性ネイキッド・ルナティッカーから発狂青年アポカリプス・ボーイまでなんでもござれ。少し路地裏を彷徨えば、薬物売りの少女ブロッコリーガールが当たり前のように春を売っている。

 実に愉快な仲間たちが揃ったものだが、彼らなどほんの氷山の一角に過ぎない。

 それよりも本当にヤバいのは――


「オイ、そこのヒップホップ・ガイ。止まりな」


 俺を呼び留めたのは、一見すると何の変哲もないチンピラただのマザーファッ〇ーだった。だが、白い袈裟ホワイト・ドレスに身を包んでいる。それは、この街で特別な意味を持つ。


「聞こえねぇのか? 半裸のメガネ野郎。汚ねぇギターケース背負ってる、そこのお前だよ」


 無視しようと思ったが、強引に肩を掴んで引きとめられる。小さく舌打ちして振りほどこうとするが、すかさず仲間の白い袈裟ホワイト・ドレスがやってきて俺の行く手を阻んだ。


「テメッ、失礼な野郎だなアァァァァァァン!? すれ違いざまにギターケースぶつけといてなんだその態度はテメッコラァァァァァン!? おかげで全治三か月の大骨折じゃねぇか、俺は救済教会『ヴァ・ジラヤッテ』の構成員だぞ!? テメッ、どう責任取ってくれんだオラァァァァァン!?」


 当然、言いがかりフェイクに決まっている。だがチンピラマザーファッ〇ーどもは、決してそうと言わせない剣呑な空気アトモスフィアを充満させていた。


 救済教会『ヴァ・ジラヤッテ』。この街に巣食うサタンであり、あらゆる麻薬の売上げを牛耳っている集団だ。巨大な暴力と金、そして麻薬の快楽ヘヴンによって街の支配をほしいままにしている――赦されるべき存在ではないし、俺の歌を捧げるにも値しない。とんだfakeフェイク野郎共だ。


「オイイイイ!! 聞いてんのかカス!!」


「ウルセェな。弱き者イジメするとお前の神が泣くぜ、メーン(笑)」


「て……テメェ! どこまで俺を愚弄バカにすれば気が済むってんだ!? ここでブッ殺してやる!」


「まぁ待ちたまえよ君。そう怒ることは無い」


 白い袈裟ホワイト・ドレスを押しのけて、橙の袈裟オレンジ・ドレスが顔を覗かせる。一般教師ビショップではなく、上位教師アーク・ビショップを意味する色だ。


「どうかね、君? これから少し時間は。ひとつゲームをしようじゃないか」


GAMEゲイム?」


「そうだ。このいざこざは、ゲーム結果によって正しい者を決めよう。どうか私の顔に免じて……な?」


 橙の袈裟オレンジ・ドレスは微笑んだ。詐欺師フェイクの顔が透けて見えるような誘いだが、たまには敢えて乗ってやるのも一興だろう。


「いいだろう。ンで? そのGAMEゲイムってのは?」


「百三十六のコマを使う知能的遊戯さ。我々『ヴァ・ジラヤッテ』の教え、その真髄が潜んでいる奥深いゲームだよ」


 白い袈裟ホワイト・ドレスたちが下卑た笑い声を漏らし出す。どうやら、よほど愉快なGAMEゲイムらしい。


「その名も救済麻雀サルヴァーレ。きっと、君も気に入るだろう」


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