第3話 アイスノン女子高生、危機一髪!

 そこはとても広いキッチンだった。広さこそが機能性の証左。収納が多すぎて逆に食材消失の事態を引き起こすとかいう状況は一切鑑みない設計仕様である。

 キッチンには女子高生が二人。

 一人はアイスピック女子高生と呼ばれる、アイスピックを持った女子高生。女子高生がアイスピックを使って喉を刺し貫く光景は、見るものにトラウマを植え付けることで有名だ。焼肉が好きだぞ。

 もう一人はフライパン女子高生と呼ばれる、フライパンを持った女子高生。熱したフライパンで親の顔を殴りつけた過去があるが、あまりにもアレなので今は封印されているぞ。

「はー腹減った」

 アイスピック女子高生は腹が減っている様子だった。なんといっても本人がそう言っているので間違いがないと考えられるが、他の根拠としては、フライパン女子高生が熱したフライパンで何か作っているのだ。

「なーまだ出来ないのかぁー?」

「そろそろできるよ」

 間延びした声に、ほんわかした声で返す。フライパンで作っている料理らしきそれもひっくり返す。やはり女子高生は戦闘ではなく、料理か、あるいはお菓子などを作るべきではないかと思われる。恋愛にうつつを抜かす女子高生こそ、女子高生の鑑。

「よし!」

「できたか!」

「うん、運ぶの手伝って」

 呼ばれたアイスピック女子高生は、三大欲求のうち現在最も必要としているもの、すなわち食欲に従って思考力皆無のままアイスピックを食卓に置いて、フライパン女子高生の背後に立った。

「あっ、そういえば―――」

 振り返ったフライパン女子高生は、


「アタイの背後に立つんじゃねえ!!!!!!!!」


 熱したフライパンをアイスピック女子高生の顔面に叩き込んだ。

「うおっあぶねえっ熱ッちィ!」

 間一髪で回避したアイスピック女子高生、いや、何も持っていない女子高生だったが、さっきまで熱されたフライパンの上で熱を蓄えていた何かしらの料理が顔面に直撃し、前が見えなくなったし熱くなった。これでは明日はアイスノン女子高生になる必要があるかもしれなかった。

「背後に立ったお前は絶対に殺す」

「くそぅ……うめえじゃねえか……!」

 顔面に叩き込まれた何かしらの料理を少し食してみたアイスノン女子高生、先ほどからキッチンに充満していた美味しそうな香りに間違いはなく、大変美味だった。殺意を向けられていることに気づいてはいるが、いくら兵器を扱う女子高生とて、三大欲求に勝利することは叶わないのである。

「テフロン加工に焼かれて死ねえ!!!!」

 美味なる食事に魅了されているアイスノン女子高生へと、第二撃が振るわれる。夢中で食を進めるアイスノン女子高生は、もはや回避することさえ不可能だった。

 しかし、

「―――ッッ!?」

 急にフライパン女子高生の動きが止まった。アイスノン女子高生の目前に迫っていたフライパンはフライパン女子高生の手を離れ、キッチン床に落下し広大なキッチンに金属音を響かせた。

「この、光景―――見たことが――――」

 そう、デジャブだ。両親の顔を叩き潰した記憶が、フライパン女子高生の封印されし記憶が蘇りつつあった。

 フライパン女子高生は、つい勢いで両親の顔面に熱したフライパンを叩きつけたことを酷く後悔していた。何故あのとき、自分は火にかけられたフライパンの柄を握ってしまったのだろう。どうして冷めるまで待たなかったのだろう。そんな思いが、アイスノン女子高生を前にして、記憶の底から蘇っていたのだ。

「必倒!」

 そうこうしているうちに食卓までアイスピックを取りに戻っていたアイスノン改めアイスピック女子高生は、さすがに今回は刃ではなく柄の部分でフライパン女子高生の側頭部を全力で殴って気絶させた。

「除霊……完了!」

 決め台詞なので最後は言うのである。


 しかし彼女は知らなかった、数日後には新たな女子高生が彼女の前に立ちはだかることを……。

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