第4話 アイスピック女子高生、出先での邂逅!

 そこはとても広い試着室だった。チャイナドレスを着込んだアイスピック女子高生が、鏡に映った自身を見て恥ずかしがっている。

「くっそ……こんなもん着せやがって……!」

「着たのお前アルよ」

 胡散臭い口調の女子高生は蛇剣を持った、要するに蛇剣女子高生。女子高生らしく制服を着ているが、ところどころに着けたアクセサリーがチャイナ感を醸し出しているぞ。

 恥ずかしがっているのは、今回はアイスピックを持ってくるのを完全に忘れたただの女子高生。武器がないので戦いようがなく、しかもチャイナドレスを着させられているため、あらゆるパラメータが三割ほど低下しているぞ。

「ふっふっふ、大陸の剣をたっぷり味わうアル」

「ど、どうして私を狙う!?」

 とにかく時間稼ぎをしなければならないただの女子高生。武器がない以上、襲われたら敗北が確定している。とにかく時間を稼ぐことが、敗北のないたったひとつの行動。

「そんなことも分からないアルか?」

「うん」

 根は素直な少女なのだ。

「本当に分からないアルか?」

「うん……」

「そっか……じゃ教えてあげるね」

 そして女子高生はだいたいいい子なのだ。

「お前! お前は一昨日「チャイナドレスは回春エステAVでしか見たことない」って発言を無視したアル! だから殺す」

「昨日来いよ!」

 昨日は家でゆったりしていたからアイスピックを持っていたのだ。

「昨日はお母さんと一緒にスイーツバイキングに行ってたの」

「そうか……なら仕方ないな……」

 ただの女子高生に成り下がったアイスピック女子高生は、武器を持っていないため心が広いのだ。普段だったらもっと攻めかかっている。

「だからって買い物に来たところを狙う奴があるか?」

「今日はお友達と買い物をしていたんだけど、たまたま見かけたから襲うことにしたの」

「たまたまか……」

「見かけたから……」

「そうか……」

 だんだん戦闘のモチベーションが下がってきていることをお互い察していた。

「なのであんまり待たせるのも悪いから、早く死ぬアルよ!」

「死にたくないな私は……」

「ということは抵抗するよね?」

「そうだな。だからかなり時間がかかると思う」

「だったら……また今度にする」

「うん、私もそれがいいと思うぞ」

 最終的にただの女子高生に促される形で、蛇剣女子高生は試着室から出ていった。

「除霊、完了」

 除霊していなくても決め台詞なので言うのである。

 ちょっと考えていた決めポーズを構えると、チャイナドレスの裾がはらりと揺れた。

「……いや、駄目だ駄目だ」

 やっぱり恥ずかしくなって、慌ててチャイナドレスを脱ぎ始めた。


 しかし彼女は知らなかった、何度か焼肉を食べて満腹になった頃に原初の女子高生が彼女の前に立ちはだかることを……。

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