第5話 アイスピック女子高生、激昂!
そこはとても広い教室だった。アイスピック女子高生は成績がそこそこなので本来居残りをする必要などないのだが、今日はとある女子高生に呼び出されて居残りをしていた。居残りは本来ならばするものでもさせられるものでもなく、ぐだぐだと駄弁らず即刻帰宅して自分の力を高めることに使ったほうが有意義だが、一般的に女子高生はマックに立ち寄ることが多い。
とある女子高生は三角定規を持っていた。数学教師が黒板の前で振り回すでかいやつである。さらに二刀流である。すなわち、彼女は二刀流三角定規女子高生! 圧倒的な数学力! つまるところの理系女子! リケジョ!
二刀流三角定規女子高生は、呼び出した女を前にこう言った。
「お前がレールガン女子高生か!」
「違うけど」
「何ィ!? まぁいいや! 死ね!」
相手が誰なのか分からぬまま、勢いのみで三角定規をブン回す女子高生に対し、アイスピック女子高生はアイスピックの先端をピタリと向けてこう言った。
「うるせえよ」
三角定規とアイスピックが激しく衝突する。衝撃は大気を震わせ、教室の窓ガラスが端から順にすべて割れていった。大気の震えが止まった頃には、三角定規は途中からひん曲がり、使い物にならなくなっていた。アイスピックは無傷で天を突いている。
「いいか、私はアイスピック女子高生だ」
「嘘おっしゃい!」
二刀流三角定規女子高生は二刀流なので、ひん曲がっていない方の三角定規でアイスピック女子高生に斬りかかった。しかしアイスピック女子高生はまたもアイスピックで三角定規を破壊した。
「くそう! レールガン女子高生め!」
「節穴か?」
二刀流三角定規女子高生はリケジョらしく本来ならば眼鏡をかけているのだが、今日はたまたまコンタクトレンズだった上、三角定規のメンテナンスをしていたときになくしてしまったので本当に視力が悪くてあまり周囲が見えないのだ。節穴といって相違ない。
「これなら!」
二刀流三角定規女子高生はおもむろにスカートをめくり上げた。太腿装着のホルダーに装填されていたのは大量の鋼鉄製薄型三角定規! 先端を目に指すと致命傷を引き起こすのでとてもあぶない。
二刀流三角定規女子高生は視力が悪いなりにアイスピック女子高生がいそうな方向へ三角定規を投擲し始めた。
「どうだっ!」
まるで忍者のような手裏剣捌きは、通信教育の賜物か。
投げた三角定規手裏剣の三割ほどは、アイスピック女子高生を射抜かんと迫る。
しかし対するも女子高生。しかもマックで駄弁っている貧弱ならまだしも、幾多もの亡霊を除霊している熟練の女子高生である。狙いの甘すぎる軌道など読むのは容易く、隙の大きな懐へ潜り込んでアイスピックの柄を振るう。
「私は――」
腹にめり込む柄。
「レールガン女子高生じゃ――――」
くの字に曲がる二刀流三角定規女子高生の身体。
「――――ねえええええええええええええええええ!!!!!!!!!」
衝撃波が教室どころか校舎を揺らし、吹き飛んだ二刀流三角定規女子高生は壁にめり込んで血を吐いた。そこでようやく、アイスピック女子高生がレールガンを使っていないことに気付いたようで、
「レールガン女子高生じゃ、ないのか……?」
と弱々しい声で訊いてきた。
「そう言ってるだろ。節穴が」
「そうか……勘違いでした……ごめんなさい……」
「焼肉奢れよ」
アイスピックの柄についた血を払い、最後に一言。
「除霊……完了!」
決め台詞なので当然今回も言うのである。
そしてアイスピック女子高生は無事、二刀流三角定規女子高生に焼肉を奢ってもらえるようになったのだが……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます