2ndシーズン
第7話 アイスピック女子高生、登校!
そこはとても狭い通学路だった。コンクリート壁の幅は実に3cm、猫一匹通る隙間さえもない本来ならば
「おりゃあああああああああああ!!!」
だが、女子高生を相手にすればこのように!
アイスピックを突き立てて、コンクリ壁をぶち壊す!!
破壊活動の標的となった指定通学路はみるみるうちに女子高生三人分の幅へと変貌した。壁として君臨していたコンクリートは欠片となり周囲に散らばっている。近所迷惑極まりねえな。
「除霊……完了!」
アイスピックをひと振りすると、突き刺さっていたコンクリ片が彼方へと吹き飛んでいった。
キメ顔でキメ台詞を言い放ったアイスピックを持つ女子高生こそ、アイスピック女子高生と呼ばれる女子高生である。
時は朝、だいたい七時半くらい。彼女は彼女が通うところの神代高校に登校中だった。
彼女は女子高生であり、女子高生にとってのおかしな言動とは日常茶飯事ではあるが、しかし今日この日のアイスピック女子高生の奇行は例外だった。いくらアイスピック女子高生が除霊を仕事とする焼肉大好きな女子高生であろうと、毎朝アイスピックでコンクリ壁を解体しているはずはない……おそらく。
彼女がこんな奇行を行うのには、やはり理由があった。
アイスピックを懐にしまうと、鞄から一枚の紙を取り出した。意味分からん、と頭を左右に振ってぼやく。
「クソッ……なんだよ通学路変更通知って……」
そう。
昨日突如として渡された用紙。
生徒会からの通達と印の押された紙には、アイスピック女子高生の新たな通学路が記されていたのである……! 手書きで!
どう考えても罠……!
しかし!
「仕方ねえよなあ」
女子高生とは素直な生物なのだった!
でも3cm幅の道は通行不可能なので、破壊せざるを得ない。そこのところ許してほしい。
アイスピック女子高生は通知の紙を鞄にしまい直して、アイスピックを手に握る。指定通学路の開拓は完遂していない。あと百メートルくらいはコンクリ壁を破壊して進む必要があった。
「チッ、なかなか辛いな」
アイスピックでコンクリを破壊する……それは繊細な作業であった。
コンクリートとアイスピック。単純な強度で見ればアイスピックが負けるのは明白だ。それでも彼女がコンクリートを破壊し続けられるのは、ツボを見抜き、突いているからである。
万物には爆砕のツボがある。ただそのツボは非常に小さく、アイスピックの先端を使わねば突けぬほどに微小だ。女子高生の狩猟本能と意識を集中してやっと見抜ける程度のものだ。
要するに、アイスピック女子高生は精神的に疲れてきていた。
言い換えると、隙が生まれようとしていた。
その頃!
アイスピックでコンクリート壁を破壊する女子高生、その遥か上空! 具体的に言うと気球のバスケット内!
「ついにこの日が来たアル」
チャイナドレスの裾をはためかせる一人の女子高生がいた。
得物は蛇剣。獲物はアイスピック女子高生。彼女こそ、胡散臭い語尾の中華風女子高生、蛇剣女子高生である。数か月前からアイスピック女子高生を付け狙っているのだ。
「『チャイナドレスは回春エステAVでしか見たことがない』……その言葉を否定しなかった罪、今こそ償ってもらうアルよ!」
そう、彼女こそ通学路変更を指示した元凶。神代高校、生徒会役員の一人だったのだ……!
蛇剣女子高生はバスケットから飛び降り、アイスピック女子高生目掛け落下していく。
十数秒の空中加速。
飛行機さながらの速度で振り下ろされた蛇剣が、アイスピック女子高生に迫る。
ああ、アイスピック女子高生の頭は尻のように真っ二つに裂けてしまうのか……!?
「……あァ」
たった半身。踊るように自然な動きで、アイスピック女子高生は蛇剣をかわした。
蛇剣女子高生に目もやらず。
「な、何ィーーっ!!」
蛇剣女子高生が着地する前に、隙だらけの胴体目掛けて回し蹴りを叩き込む。落下方向を九十度変えて、蛇剣女子高生は今度は真横に滑空していった。
コンクリ壁を何枚も砕き、ようやく停止する。
咳き込んでから崩れ落ちた。
「……い、以前の力量では避けられないはずの攻撃だったアルに……」
「いつの話してんだ?」
アイスピック女子高生は首を捻ると、笑った。
レールガン女子高生との邂逅から数か月……。幽霊とのバトルを積み重ね、アイスピック女子高生は強くなっていた。あのとき燃え上がった炎は、いまだ消えていない。
すべてはレールガン女子高生との再戦に備えて。
チャイナドレスの女子高生なんぞに負けてはいられないのだ。
倒れた蛇剣女子高生に近づく。蛇剣女子高生はアイスピック女子高生を見上げた。ダメージが深くて動けない。
「強くなったね……」
「キャラ忘れてるぞ」
「もう教えることはないアル」
「どっちだよ」
「とどめを刺すアルよ」
蛇剣女子高生は両腕を広げ、胴を曝け出した。
「私は失敗したから……生徒会には戻れない」
「ふうん。やっぱお前、生徒会からの刺客かよ」
アイスピック女子高生はニヤリと笑い、アイスピックを放り投げた。倒れたままの蛇剣女子高生に手を差し伸べる。
「……何のつもりなの?」
「私と友達になろうぜ」
「いいの? やったあ!」
蛇剣女子高生はアイスピック女子高生の手を握り返すと、立ち上がって抱きついた。蛇剣女子高生は友達が多いのだが、若干距離感がおかしいことでも有名だった。
抱擁を振り払いもせず、アイスピック女子高生は呟いた。
「アイツと戦う前の腕試しだ。生徒会とやり合ってやる」
「じゃ私も手伝うね。友達だもん」
「キャラ」
「友達アル!」
しかし彼女は知らなかった、蛇剣女子高生は生徒会の中でも最弱の女子高生であることを……。
急襲アイスピック女子高生 大河 @taiga_5456
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