第159話 帰郷
ガンドリア王国で王族と懇親したり、エルベルトたちの生まれ故郷に寄ったりした後は、大きな問題もなくヴァノーネ王国に入る。このヴァノーネ王国が、レオの生まれ育った港町シラクイラのある国である。
「レオ、あなたの馬車、魔法の収納袋にしまった方が良いわよ。それで騎乗するか、私の馬車に乗りなさい。あなたの家族に迷惑をかけたくないのであれば、ね」
マルテッラが国境を越えたところで、レオの貴族らしい馬車をしまうことを指示してくる。レオが、たとえ他国の、であっても貴族であることが知られてしまうと、その家族を人質に身代金を要求するなど良からぬことを考える者が出てくる可能性を指摘される。
「あ。ありがとうございます!でもエルベルトたちの家族の時には貴族と知られて良かったのでしょうか」
「そうね。貴族の家臣や使用人の家族を人質にしても、普通はその貴族は何もしないと思われるから狙われないわよ。レオなら何かしてしまいそうだから、そのことを世間には知られないようにしなさいよ」
その後は、王侯貴族らしい馬車は公女の1台だけになりヴァノーネ王国を進む。レオは生まれた国と言ってもシラクイラ以外は知らないので、騎乗になって風景を楽しむことができた。また、この王国はルングーザ公国と領土が接していないこともあり、マルテッラ公女もここの王家とは特に縁がない。そのためか、以前に通ったときと同様に街の城門で身分証明を提示しても、その街の代官から呼ばれることも無かった。
そうして、いよいよシラクイラの街に近づく。
「ではまず慰霊に行きましょう」
公女マルテッラと平民のレオが出会うきっかけとなった、マルテッラの誘拐現場に向かう馬車集団。
レオは仲間たちに当時の経緯について説明済である。レオが当時の仲間たちと狩りをしていたら、ゴブリンたちとその後ろから賊たちがやって来たので怪我をした仲間を逃してレオだけが残った。そのレオは賊に捕まったのだが、賊が目的の公女を捕らえた後はその世話人として生かされて、公女と共に船でクレモデナ王国に運ばれた。最終的には公国が公女の身代金を払ったことで助かったのだが、そのまま公女の使用人にして貰うことになった、という経緯を、である。
また、公女が捕まったそのときに当時の護衛の人たちが殺されたことも、説明してある。
「エルパーノ、トニー……」
マルテッラが長い黙祷を終えた後は、気合いを入れたのか顔を振ると、いつもの元気な顔に戻る。
「レオ、あなたの街に向かいましょう!」
マルテッラの使用人が高級宿の予約のために先に行っており、その宿に馬車などを置いて一部の者だけでレオの実家に帰る予定であった。ただ、レオがシラクイラの街を出ると決めたときもマルテッラが無理やりレオの実家に同行したように、今回も当然のようにマルテッラが付いてくる。
「マルテッラ様……ご存知の通り、うちの実家は汚いし狭いですからね」
「レオ、わかっているわよ。でもこの街から連れ出したのは私ですから、ちゃんとご挨拶をしないと」
「は、ありがとうございます」
「口ではそう言いながら、面倒そうな顔をして」
「そんなことは……」
「私がついて行くことで、レオ達は私の護衛と周りが見るわ。その方がレオの家族の安全のためには良いでしょう?」
公女の使用人は誰もついてこないようにマルテッラの指示もあり、レオは自分の仲間と公女だけなのでますます気楽な会話をしているが、周りにしてみるとヒヤヒヤである。
「ここがうちだよ」
上等な衣服の騎乗した10人が、一般宿の前に到着したのである。宿に備え付けの食堂で食事を終えて出ようとした客が驚き、店内に戻り何か叫んでいるようである。
「あの、どこか道をお探しでしょうか?ご案内致しますが」
レオの母アンが飛び出てきて、頭も下げたまま話してくる。地面に膝をつくほどではないが、かなり偉い人が来たと思っての礼儀のようである。
「お母さん、ただいま」
「え!?え!?レオ?」
「そうだよ、レオナルドだよ」
馬を降りて母の手を取って顔を上げさせて会話する。
「お店、空いてなさそうだね。今回も隣の寺小屋を借りられるかな?」
「あぁ、今日は休みのはずだからロドに言えば……」
「じゃあ、先に隣に行っているね。手が空いたときにお父さんたちと来てね」
まだ頭が追いついてない感じのアンだが店内に戻っていく。
一方のレオは、勝手知ったる他人の家、という感じで隣の薬屋でありその上が寺小屋である師匠のロドの家に入り、2階を借りる旨の話をつけて戻ってくる。
「じゃあみんな、馬はその辺に繋いで2階に。マルテッラ様も」
寺小屋にレオたち10人だけでなく、レオの父ディオ、母アン、兄クロ、師匠ロド、そしてレオがここに居た時の冒険者仲間であったルネとガスも揃っている。ルネとガスは、ルネの父であるロドが人をやって呼んでこさせていた。
「まず私からね。改めて。ルングーザ公国の第3公女マルテッラ・ルングーザです。こちらのレオ、今はコリピザ王国の伯爵でありルングーザ公国の準男爵であるレオ・ダン・コグリモ卿のおかげで、私の身の安全は確保できるようになりました。彼にこのシラクイラから来て貰うようお願いした当時の懸念は無くなりました。彼を送り出してくださいまして、感謝しています。本当にありがとうございました」
公女であるマルテッラが頭を下げたことにも驚いているが、その前のレオが貴族である発言のところから、関係者の思考は止まってしまい頭が追いついていない顔である。
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超記憶レオの魔導書蒐(あつ)め かず@神戸トア @kazutor
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