第43話 カードゲームが好きだから

 さて、俺にとって一世一代の大立ち回りをした翌日。

 朝、登校すると俺の席の横にはすでに奈津がいた。


 「おかえり……奈津」


 「ただいま」


 彼女もちょっと照れくさそうにしている。

 よかった。無事に戻って来れたんだ。安心して涙が出そうになる。


 「ありがとう。あなたのおかげ。やっぱりあなたは私の英雄ヒーロー


 「や、やめてよ。そんな大層なことしたわけじゃないって……」


 目をキラキラさせて俺を見つめられて、照れて顔が赤くなる。

 そんな事をしていたら、


 「よお、国頭。世話になったみたいだな」


 「ありがとう。君のおかげで戻って来れたよ」


 「すげぇな国頭。あの皇浦を負かすなんて」


 「王者(チャンピオン)は伊達じゃないな!」


 呉屋君たち4人も、登校してきて順番に俺に挨拶をしてくれる。 

 そうだ。まだ姿を見ていない人物がいる。


 「皇浦は……いないのか」


 だが、教室の中に彼の姿だけはなかった。


 「戻ってこないのかな……」 


 「いやいや、優馬殿。見て見なよ」


 武束が電子掲示板のランキング表を指差している。

 復学した生徒たちは、全員ゴールドが1000になっているのだが、その中に皇浦の名前もあった。

 武束が横でうんうん頷いている。


 「あれだけのことをしたのだからね。復学しても顔を出しづらいというのも仕方ないことさ」


 「そっかー……」


 だったらいずれ再会するかもしれない。

 ほんの少しほっとしたのだが、奈津がちょっと小首をかしげる。


 「裏切り者でも。こうやって図々しく顔出してるのに」


 そんなキツイ事を言われて、武束はガクッと肩を落とす。


 「あうあう。それはもう謝ったじゃないか」


 「彼が許しても。私は許さない」


 「そんな~」


 「……やれやれ」


 ようやく、いつもの日常が戻ってきた感じがした。

 そして、始業のベルが鳴って葉月先生が教室に入ってきた。


 「はーいみんな注目ッ! 復学してきたみんなはおかえりッ! あと一人、A組からこのT組にクラス変えしてきた子がいるからッ!」


 クラス変え? こんな中途半端な時期に?

 っていうか一人だけクラス変えってどういうことだ?

 なんて思っていったら、教室に入ってきた少女の顔を見て、思わず椅子から転げ落ちた。


 「優ちゃんの幼なじみの、一之瀬奏星でーす☆ みんなよろしくね!」


 この声、この姿。どこからどう見ても奏星だった。


 「……聞いてないんだけど!?」


 「そりゃあ、言ってないものー。昨日理事長から連絡が来て、よかったらT組に入らないかって言われてねー。二つ返事でオッケーしちゃった☆」


 え、そんなのありえるの?

 しかもどういうわけか、俺の席の横(奈津とは反対側)に新しく机と椅子が運ばれてきて、そこに奏星が座ることになった。


 「いつだって優ちゃんの隣のあたしの席なんだから」


 満足そうな顔をする奏星を、奈津がちょっと睨みつける。


 「私はもう負けない」


 「ふーんだ! 次もあたしが勝つんだからね」


 俺を間に挟んで、女子2人が熱い火花を燃やしている。

 真ん中にいる俺が火傷しそうなぐらいだ。


 「いやはや、優馬殿はモテモテでうらやましいね」


 遠くから武束が囃し立てて、他の生徒達もやいのやいの騒ぎ出す。

 俺はと言えば、机につっぷして、ため息をつくしかなかった。


 「……やれやれ」


 奏星も加わって、ますますT組も盛り上がってくれることだろう。

 

 入学したときはカードゲームなんて卒業した。もうやりたくないと思っていた。

 

 でも今は、このカードゲーム学園の生活が楽しくてしかたない。

 

 それでもいつかはやめる時がくるかもしれない。

 何らかの理由でできなくなるかもしれない。

 将来受験勉強で忙しくなったり、就職して仕事が忙しくなったり、結婚して遊ぶ余裕が無くなるかもしれない。

 周りの人に反対されるかもしれない……だからって、今やめる理由にはならない。


 今を精一杯楽しむ。そして、みんなが楽しめるよう、手伝いをする。


 「……だって、俺はカードゲームが好きだから」

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カードゲームは卒業したのにTCG学園に放り込まれたんだが ~イカサマ王と呼ばれた俺はカードゲームなんかしたくない~ ゼニ平 @zenihei5

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