とある夏の夜の、ありふれた話。
村崎 紫
第1話
友人が死んだ、自殺だった。
出会いは高校の頃、授業で班分けになった際好きな漫画の話題に始まり、気付けば話に花が咲いたというが如くといった感じだった。お互い部活には所属せずに帰宅時間を共にした。カラオケ、ゲーセン、買い食いにお金がないからとウィンドウショッピングと放課後活動に勤しんだ。高校を卒業してから疎遠になるということもなく、定期的に連絡を取っては遊んだり料理を共に囲むなどの交友は続いていた。卒業からはもう8年ほど経つ。彼女からの連絡が来なくなったのは1年前、つまり卒業から7年経った春頃からだった。
死因は首吊りによる自絞死で、発見した時は死亡推定よりさほど時間は経っていないらしく、1日経ったかどうかというラインらしい。発見者は会社の同僚で一度も遅刻やその旨の連絡が来たことがないことから怪しみ自宅へ向かい、とのこと。
葬儀を終え自宅に向けて車を走らせながらそんなことを考えていたなか、ポツンと一つだけ煌々とした灯りを放つコンビニが見えた。とうに時刻は24時を回っておりそれなりに疲れもあったので、車を止めエンジンを切りチェアの背を後ろに倒して寝転ぶ。漆黒とも言えるほど深く黒い礼服に少ししわちゃけた礼服用シャツの衣擦れする音が恐ろしく静かな車内に響く。少し前までただひたすらごめんねを繰り返して泣きじゃくるあまりに情けない自分の姿を想像しては情けなく思う。なぜあの時というたらればでしかない'可能性'を思案するがそれで何かが変わるわけでもないのは自明の理なのであって。
気分転換に、と車を出てコンビニ店内へと入る。真っ先にアイスコーナーに向かい目当てのものがあるかを目で探す。クレープアイスだった。彼女が放課後の寄り道でよく好んで食べた物がクレープだった、同時にクレープ生地でアイスを包めたアイスがあることを思い出し購入に至った。夏の夜の所為か感傷故か、手に取った買ってすぐのクレープアイスを冷たく感じることはなかった。車内に戻ってすぐに一口、味わい切らずにまた一口と口の中にアイスを押し込めていく。枯れたのか、もはや涙は出なかった。
エンジンをかけ、再び車を動かす。家が山の付近で葬儀場からも距離があり、寄ったコンビニのある通りは普段通らないことから、行きは一本道だった記憶があるが不安のためにカーナビのナビ機能を起動、目的地は自宅にした。このまま街に行き陽が明けるまで過ごすのも良かったがよくよく考えれば明日からは普段通り出勤しなければならなかったので素直に帰ることにした。
思い出したことがもう一つあった。置いてあった遺書には、私宛に『アイビーの花と蔦を棺に入れてくれ』と書かれていたらしく、葬儀場から車で10分ほど離れた花屋に無理を言って仕入れてもらった。そもそも贈り物には用途不向きな花だったらしく、花好きの知り合いから譲ってもらったらしい。花言葉はなんだったか思い出そうとすると
《この先、左折です。》
ナビのアナウンスが鳴る。ウィンカーを左へ出しハンドルを傾ける、その時
「ずっと、一緒だから。」
そんな声が聞こえた気がした。あぁ、そうだった。アイビーの花言葉は『死んでも離れない』だ。
意識が消える直前、先程食べても感じなかったクレープアイスの味をやっと知覚出来た。
「甘い、な。」
とある夏の夜の、ありふれた話。 村崎 紫 @The_field
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