テーマ「タバコ、ジッポライター」
あたしが付き合うことになる男は。
必ず、タバコを吸っている。
単なる偶然なのだと思うのだが、ときどきだけのやつからヘビーなやつから。
あたし自身は、タバコは吸わない。
くさいし、煙たいし、服とかにもにおいとかつくし。
正直、あまり好きではない。
でも、なぜだろうか。
あたしが付き合う男たちは、みんな。
タバコを吸っているのだ。
最初の恋愛は、大学生のとき。
同じサークルの先輩に、恋をした。
向こうも同じだったようで、飲み会で意気投合して。
喫煙者と禁煙者で分けられたのに、あたしはわざわざ喫煙席に行って、彼の隣りに座った。
そのときは、タバコの煙は気にならなかった。
彼と話せるのが楽しくて。
彼の笑った顔が嬉しくて。
お酒も入った席で、あたしは。
はしゃいでいたものだ。
それから、一緒に行動するようになって。
デートをして。
付き合ってください、といわれて。
ファーストキスは。
タバコの香りがした。
そんな歌、あったよね。苦くて切ない香り、だっけ。
なにせファーストキスだったから、苦さも切なさも感じなかった。
嬉しくて、温かくて。
その香りをずっと忘れられなくて。
あたしは彼がタバコをふかすたびに。
キスをねだったものだ。
彼はあたしがタバコを吸ってないことを気にかけてくれたのか、「嫌なら禁煙するよ」といってくれた。
そのとき、あたしはうなずいた。
まあ、タバコが好きというわけではなかったし、服につくにおいとかは気になっていたし。
でも、彼はタバコをやめられなかった。
彼は、やめたいと思っていたのだろう。
でも、やめようと思っているのにやめられない彼は、どこか、自分にいらついていたらしく。
彼とぶつかることが多くなって。
違うな、と思うことが多くなって。
あたしたちは、そのまま別れてしまった。
それから。
そこそこの人数とお付き合いすることになったのだが。
その全員が、タバコを吸っていた。
本当に、タバコを吸っている人の数って減っているのだろうか。
まあ、やめたくてもやめられないのだろうから。
本当は、減ってないんじゃなかろうか。
あたしは、そんなことを考えていた。
いま、あたしは最近付き合い始めた男とホテルにいる。
終わったあと、あたしがそのままごろごろしていると、彼は枕を背もたれにしてジッポライターでタバコに火をつけた。大きく息を吐いて、ジッポライターを手の中でくるくる回す。
「……マイルドセブン?」
その香りに、覚えがあった。
どこかで聞き覚えのある煙草の銘柄を口にすると、彼は意外そうにこちらを向く。
「なに、タバコ詳しいの?」
彼はあたしがなぜそのタバコを知っているのか知らない。
彼はあたしがタバコを吸う男としか付き合ったことがないのを知らない。
「んーん」
でも、それをいう必要はないだろう。
そんなの、今の彼には関係ないのだから。
「詳しくなんかないよ」
あたしは体を起こして彼に覆いかぶさった。
懐かしい香り。
そこで、あの曲の歌詞をまた思い出した。
苦くて、切ない香り。
ああ、こういうことか。そう思った。
短編 影月 潤 @jun-kagezuki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。短編の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます