終 再びの、春

 また、春がやってくる。深春の一番好きな季節が。

 何度も、深雪と一緒に季節を過ごしてきた。

 生まれてきたときからずっと一緒で、そしてこれからもずっと一緒の魂の片割れ。

 深春と深雪はお互いがもうひとりの自分で、双子のきょうだいだった。

 ――ずっと、一緒にいようね。

 そう言っておかなければ、何だか深雪が離れてしまうような気がして、深春はそんな言葉で深雪を縛ることしかできない。

 ずっと一緒にいるのだから、深雪がずっと思い悩んでいることくらいわかる。そしてそれが、自分のことであることも。深春は今まで、片時も離れず深雪と一緒に生きてきた。

 だから深雪が何を考えていても、深春は深雪と生きていたいと思っている。

 今までだってやってこられたのだから、これからだって一緒に生きていくことはできるはずだ。ずっと、二人で繋げない手を繋いで歩いていくのだ。何度も春を重ねながら。



 ――ずっと、一緒にいようね。

 いつか深春が深雪に言った嘘に縋りながら、深雪は生きている。

 春が訪れるたびに思う。

 今年一年、自分はまだ深春と一緒に生きていていいのだろうか。

 もう次の春には、自分は消えるべきなのではないだろうかと。

 桜の花びらが降る。

 春の日差しとともに頭上に降り注ぐ桜を見上げて、深春が言う。

「見て、深雪。今年も桜がきれい」

『そうだな』

 深春はきっと、桜を見上げて笑っている。だが深雪には、深春の顔が見えない。

 鏡でしか深春の顔を見たことがない。それでもきっと、今散っている桜の花びらを見上げる深春は、誰よりも輝いていてきれいなのだろう。

『多分、きれいだな』

 深春は通学路を歩きながら言う。

「今年も、ずっと一緒にいようね。これから先も、ずっとよ」

 深雪は、深春の頭の中で目を見開いた。

 深春も気づいてるのだ。二人、いつまでも一緒にいられるわけじゃないことを。

 だからこそ彼女は言うのだ。呪文のように。今年もずっと一緒に、と。

 深春の視界を通して、深雪も一緒に桜並木を見上げる。

『今年も、一緒にな』

「うん」

 そうして二人は心の中だけで、現実では絶対に繋げない手を繋いだ。

 もう一年だけ。そう祈りを込めて、空を見上げる。

 いや、できるだけ長く。例え深春にとっていつか負担になるとわかっていても。

 できたらさいごまで一緒に。そうして、また新しい一年を重ねていく。

 また春夏秋冬(ひととせ)。

 そしてもう一年(ひととせ)。

 二人で、いくつものひととせを廻っていく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ひととせ 葛野鹿乃子 @tonakaiforest

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説