【書籍版2巻発売中】異世界の落ちこぼれに、超未来の人工知能が転生したとする~結果、オーバーテクノロジーが魔術異世界のすべてを凌駕する~
第361話 異世界の落ちこぼれに、魔術人形が声を掛けたとする~結果、ロストテクノロジーが魔術異世界のすべてを――⑩
第361話 異世界の落ちこぼれに、魔術人形が声を掛けたとする~結果、ロストテクノロジーが魔術異世界のすべてを――⑩
「うっ!? 魔力剣が、逆にへし折れゲゲッ!!」
「どうなってんだ!? こんなの人間の体じゃ……ぐ、ヤベデデエエ!?」
「ま、待て、ちょっと待て!! 何も効かな、ガアアアアア!?」
沢山の方向から、魔術で穿たれ、剣で斬られる。痛くない。怖くない。ただ、彼らは完膚なきまでに潰さなければならない敵だった事は覚えている。
キルプロから痛みとともに習った魔術なんて、使う気にならない。
潰さなければ。
自分の手で直接頭蓋を割って、心臓を貫いて、首を握り潰さなければ。
「一斉攻撃だ! 魔術を合わせろ! ふはは、これなら……あっ、ああああああっギャア!?」
「なんでだ!? なんも効かねえ!? スーホドウ団チョっ!?」
「ひ、ひいい!? ア」
胸が熱い。古代魔石が脈打つ。無限に力がこみ上げてくる。また一人吹き飛んだ。
昔、力が欲しかった。完璧な人間になりたかった。何よりも美しくなりたかった。
それが、ユビキタスの血を引いた、テルステルの一員としての役割だから。
だけど今はただ、虚しい。
人類で最初に古代魔石と融合した少年は、そんな力は要らなかった。
本当は美しさなんて、最初から欲しくなかった。
「あ、あああああっ!? や、ヤベッ」「ひっ、ヒッ」「死ニ、ユグッ!?」「アアアアアアアアアアアア!?」「ベッ」「……!」「メッ」「お母さサ」「く、来るな!? あ、あああああああ!! ン」「ボボ」「ン、ン、ン、ンン、ンン、ンン、ンン、ン」
死に物狂いで落とされる剣閃と、無我夢中で降り注がれる魔術のイルミネーション。
断末魔の讃美歌。
血と肉の噴水が赤く彩る。
リンゴジュースよりは甘くない。鉄の匂いしかしない。
けれども、それらも世界を白くする豪雨と比べれば、矮小なものでしかない。
太陽への祈りだって、この雨ではいともあっさりと掻き消される。
そもそも、誰も笑顔にしない福音に、一体何の意味があったのだろうか。
それなら、神なんて要らない。
神なんて、最初からいなかった。
欲しかったのは。
欲しかったのは。
いたのは。
あったのは。
心臓をときめかす、眼鏡をかけた天真爛漫な笑顔。
“美味しい”、笑顔。
ラヴ。ラヴ。ラヴ。ラヴ。ラヴ。ラヴ。ラヴ。
モウ、無イ。
……誰のせい?
ハルト、オ前ノ、セイダ。
オ前ガ、生マレタカラ、人ガ死ヌ。
「ブゲッ」「ウ」「……ガボ」「ひ、ひ、待ってくレ」「畜生うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおオ」「俺の頭、あんな所ニニニニ」「化も……ノ」「ゾ」「あああああああああブブ」「……!」「グギ」「ブブブ」「死にたく、アアアアア」「助ケ」「ヴォ」「早くなんとかしろ! 一斉に囲ンブブブ」「逃ゲ」「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だこんな筈ンンンンンンンン!!」「……ご、ごめんなザザザ」「聞いてない、こんなヴォ!?」「ハルト様、落ち着いてください、俺はあなたに帰順シシ!?」「まって、ハルト、ハルト様アッア!?」「あれ、俺首が、ア」「ぐ……アァ」
そして、99人分の雨が降った。
原型を留めぬ肉塊の山頂で、ハルトは立ち尽くす。
雨は生者も死人も容赦なく打ち付ける。
100人狩りの感慨に浸ることも無く、雨水に沈んでいく。
「……ふ、ふふ、流石は白龍、ドラゴンの力」
“浮沈太陽団”も、スーホドウを残すのみ。
スーホドウの顔には、恐怖を通り越して崇拝に近い驚きを、顔に宿していた。
「しかし、その力もハルトには荷が重い! 落ちこぼれの貴様には、荷が重い!」
振動が再びスーホドウの体を纏い、弓を射る体勢になった。
「古代魔石だけを残して跡形もなく消滅せよ! “
見えざる破壊の矢が、スーホドウが撃たれた。
同時。
烈風が、螺旋を描く。
竜巻の目の始点と終点。
ハルトとスーホドウが繋がる。
竜巻の“トンネル”。
駆けて跳ぶ。
右脚を前に突き出し、雨男は飛龍さえ凌ぐ矢となる。
「スキル深層出力“
“
“
衝突は一瞬だった。
“
そのまま、右脚がスーホドウに衝突する。
「がっ!? はああああああっ!?」
“
ハルトは水溜まりも構わず歩くと、スーホドウを瓦礫の中から引っ張り上げる。
使徒の、強化された肉体。
それでも、金魚の様に口をパクパクさせる事しか出来ない。
だらりと、両腕を下げている。
「……ご、ごぶっ」
血と共に噴き出る声。
「主よ……神よ……何故、我らを……見捨てたもうたのか……」
「……それは、神じゃない」
「……?」
「心だ。てめぇの欲望に溺れた心が、そうさせたんだ」
このスーホドウという男を、知っている。神への祈りを免罪符に、日々馳走とワインと女に耽溺してきた、醜い存在だ。ランサムと同じように、醜い存在だ。
「……僕も……いや、俺も、そうだ」
自分と……ハルトと同じように、醜い存在だ。
醜さが、怒りを沸き起こす。深海から立ち上る泡の如く、沸き起こす。
「ぐっ!?」
地面にスーホドウに叩きつけると、馬乗りになる。深淵と同化したような目で、既に虫の息だったスーホドウを見下ろす。
「僕たちは」
「ぎっ」
振り下ろす。
「……俺たちは」
「ぶっ」
振り下ろす。振り下ろす。
「……僕たちは俺たちは僕たちは俺たちは僕たちは俺たちは僕たちは俺たちは僕たちは俺たちは僕たちは俺たちは僕たちは俺たちは僕たちは俺たちは僕たちは俺たちは僕たちは俺たちは僕たちは俺たちは僕たちは俺たちは僕たちは俺たちは僕たちは俺たちは僕たちは俺たちは僕たちは俺たちは僕たちは俺たちは僕たちは俺たちは僕たちは俺たちは僕たちは俺たちは僕たちは俺たちは僕たちは俺たちは」
振り下ろす。振り下ろす。何度も、拳を振り下ろす。
泣き叫ぶ迷子の拳が、雨と一緒に更に強く打ち付ける。
呪詛の間に、何かがつぶれる音。
ぐちゃ、ぐちゃ、と。
使徒の顔が少しずつ潰れていく。
伝播した衝撃で、地面が少しずつ罅割れていく。
「今まで一体、今まで一体、今まで一体」
「……」
「何をしていた、何をしてきた、何を、何を、何を、何を、一体どれだけ、殺してきた! どれだけ、植えさせてきた! どれだけ、奪ってきた! どれだけ、どれだけ、どれだけ、どれだけ!!」
どれだけ蓄積しても、ハルトの手は潰れない。知らない。
スーホドウの頭蓋がばらばらになった。知らない。
中身が辺りに散らばった。知らない。
地面が見えてきた。知らない。
返り血は雨で流れていく。知らない。
スーホドウの肉片が雨水に混じった。知らない。
そもそもスーホドウをどうして殺そうとしたのか。知らない。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
慟哭と一緒に、何か大事なものまで吐き出した。知らない。
しかしハルトは構わず、怒りを注ぎ続ける。知らない。
自分へと、怒りを注ぎ続ける。知らない。
知らない。知らない。知らない。知らない。知らない。
知ってるのは。
終わった少女たちの、笑顔だけ、だった。
例えば。
例えば、半年後にハルトが深く関わる元人工知能のような、仲間はもういない。
例えば、我を忘れた時、振り上げた拳を抱き留めてくれる魔術人形はいない。
例えば、一人で突っ走った時、叱ってでも一緒に走ってくれる第三王女はいない。
例えば、国よりも自身の命を心配してくれる第二王女はいない。
例えば、家族として愛したくなるような、“美味しい”侍女はいない。
当たり前のように、つじつま合わせたちは役割を終えて、雨に流された。
存在した事さえ、数秒の逡巡でしか証明できない。
ハルトを止めてくれる人は、もういない。
増える時間に、もう意味はない。
ただ、雨が降り続けるだけだ。
もう、いない。
「……」
そして、止まった。
雨曝しで、嵐に打たれるまま。
上半身が消滅したスーホドウの真上で、ただ俯く。
“浮沈太陽団”の血が濁った、雨の湖に、無感情の顔が映っている。
人間は、どこにもいなかった。糸の切れた人形が、ただ沈黙していた。
そんな中、心臓の代わりをした古代魔石から、光が発された。
古代魔石“ドラゴン”としての記憶。2000年前の記憶。
あれだけ敬愛していたユビキタスの正体。ラヴの前身である“ドラゴン”の姿。
晴天経典と乖離する物語。
そして、“
「そうか。そうだったのか、ラヴ。君は全て知っていたんだ。例外属性“焚”は、ユビキタスの力ではないという事も。“
ハルトは、その記憶を一瞬にして体験して、更に表情を消す。
どうしてあの女の子は餓死する必要があったのか。
半年前、神を愛していた筈の神父や信徒が燃やされる必要があったのか。
“うたうたい”は壮絶な最期を遂げなければなかったのか。
ラヴは、死ななければならなかったのか。
分からなかった。
だから、ラヴの手を取って、世界を旅した。
その結果、“真実”に気付いた。
「ラヴ。これが君が見せたかったものだったのか。2000年前、ユビキタスは世界を救っていなかった。世界は、地獄のままだった」
ハルトは、“うたうたい”とラヴの遺体を同じ個所に横たえた。
四人の少女は、安らかに目を瞑っている。
詫びるように、ハルトは膝を着く。
祈る様に、ハルトは空を見上げた。
しかし、その天に神などいない。
大地に、二種類の心がいるだけだ。
ただ私腹を肥やし、世界を捻じ曲げ、生命を吸い上げる神気取りの心と。
人生も尊厳も捻じ曲げられ、悲しみに浸る事しか出来ない被害者たちの心。
「……なんで、“心”があったんだ。心はどうしてあるんだ。そんなものが、そんなものがあるから」
――“心とは何か”なんて問わない。
“心が何故あるか”。ハルトは、それを世界に問うた。
心なんてものがあるから。
自分の事しか考えない、人間が生来そういう連中だったから。
「なあ、ラヴ」
雨水に浸る彼女の頬は、少しだけ温かった。
次第に冷たくなっていく。隣で横たわる“うたうたい”達の様に、冷えていく。
もう、彼女は世界にはいない。
喪失感。虚無感。絶望感。
ラヴの遺骸と一緒に抱きしめながら、肩を震わせて呟いた。
「もう、笑えなくていい。ただ悲劇を生むだけの、心もいらない。君達のような被害者が生まれる。笑顔を明日を迎えられない。そんな世界より、苦しい場所があるもんか……もう二度と、君達のような子が出てこないように……」
たとえ滝が空から降っていようと、間違いなく聞こえるくらいに、彼女の耳元でささやいた。しゃっくり混じりの泣き声で、誓った。
「――ラヴ、君の夢を叶えよう。この世界を、笑顔にする」
ユビキタスが救えなかった醜い世界を。
神が見捨てた醜い世界を。
“心”から、解放する。
最初から、心も宗教もいらない世界にする為に。
笑顔だけの、誰も死なない世界にする為に。
そして、ハルトという大罪人を世界から追放する為に。
――
■ ■
――上映終了の
クオリアは、何度もハッキングを試みていた。無駄だと分かっていても、せざるを得なかった。そして失敗の反応が何度も帰ってきただけだった。
力なくノイズに苛まれるクオリアだったが、何故か疲労は回復していく。
古代魔石“ドラゴン”から流入した魔力が、クオリアの脳へのダメージを塞ぎつつある。
「クオリア君」
「ラヴ。あなた達は……」
言い淀むクオリアの口を、そっと押えるラヴの光。
「私の魔力では、ここまでです。だから消える前に、クオリア君に遺しておきたいんです。何故、こんな景色を見せ続けたのか。そして勝手ながら、何を願うのかを」
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