>この作品のさわりとしては、人間が絶滅した世界で新たに地球の支配者となり破壊を繰り返す人工知能。その中でもひときわ戦果を挙げていた〈シャットダウン〉という人工知能が死に際に「心」とは何かという一つのバグを生み出し、異世界に転生する。そして新たな世界で落ちこぼれとして扱われている〈クオリア〉という人間として生まれ変わったシャットダウンがその世界で会う様々な人とのかかわり、その中で会う様々な事情を抱えた人々との関係の中から「心」をラーニングしていく...という物語だ。
>最近だとごくありふれた?異世界転生という題材に人ではなく、〈人工知能〉を転生させるという斬新な作品だ。自身がこれまで見てきた中では、現代日本のような世界で人工知能が成長していく...、または未来の世界を想像して書かれたもののしかなかった。しかしこの作品は、そこに〈異世界転生〉を掛け合わせたのだ。
>この作品の素晴らしいところは、クオリアの周りにいる人々の感情の描写だ。
もちろん〈心〉というものを題材にしているだけあって感情の描写が素晴らしいのは当たり前だ。しかし自分でもよく表せない感情をこのように文章として表せるのは本当にすごいことだと私は思う。
>これからもクオリアがどう成長し〈心〉を学んでいくのか...目が離せない物語だ。
魔術の発生原理に科学的知見を持ってくる異世界ファンタジー作品は数多くありますが、登場人物の設定それ自体にSF的要素を持ってくるという点が珍しく映りました。
「汎用AIを搭載した自律型戦闘存在が、その身に持つ機能のいくつかを保持したまま異世界へ転生する」――この、SF好き、ファンタジー好きの両者が食いつくような設定を、しっかり「面白さ」に昇華させているのが良かったです。自分は安易な異世界転生モノやチートモノが苦手なのですが、タイトルに惹かれ、あっという間に最新話まで読み進めてしまいました。それはひとえに、どんなチートが描かれようが、どんなご都合主義が起ころうが、「人工知能が人間の心を学んでいく」という古典SFの王道をしっかりと描こうという意識に溢れているからです。たしかに物語の表層は、よくあるチートモノに近いかもしれませんが、しかしその根底に流れているのは古典SFへの敬意であるんじゃないかと感じ入りました。
だから私は、この物語が好きなのです。今後も応援しています。