決闘者 井上猛

@mayukani381

第1話

 井上猛は「私立蹂躙学園高等部」の1年生だ。英語の授業中に指名された猛は英文を音読したところクラスメイト数人に発音が良すぎることを誂われたことで怒りで我を忘れ彼らのスマートフォンの保護フィルムを全て剥がし窓の外に放り投げた。保護フィルムを放り投げられた4人はその場は唖然として全く行動することができなかったが、時間が経過するにつれて怒りが込み上げ、被害者4人は結託して猛への復讐を目的とする<井上レクイエムズ>を結成した。話し合いの結果、復讐の内容は猛の自宅に4tトラックを全速力でぶつけるという内容にものになった。しかし、井上レイクエムズは猛の住所を知らなかった。そのため、パソコン部の「パソコンくん」を恫喝し職員室のPCから生徒の住所や連絡先が記された生徒台帳を抜き取らせた。お役御免となりパソコンくんは開放されるかと思いきや井上レクイエムズにより4tトラックの運転手に任命された。「この作戦を完遂すれば蹂躙学園十字翼勲章モノだぞ」とレクイエムズの一人が震えるパソコンくんの肩を叩くと、パソコンくんの震えは止まり千の戦をくぐり抜けてきた歴戦の猛者のような顔つきになった。大手質問サイトで赤の他人に説教をかましては去っていく人間を観察することを生き甲斐としていたかつてのパソコンくんはその時、死んだのであった。

 放課後になりオペレーションレクイエムは決行された。4tトラックの荷台の屋根に乗ったレイクイエムズ達のうちの一人が「パソコンくん!一番槍だ!!!!」と叫ぶと運転席のパソコンくん、否、<漢>がアクセルを踏み込む。井上家の前の直線400mの道路。最高速度に達するには十分な距離だ。レクイエムズのメンバー達は「井上家」という表札を目視で確認できる距離に迫ると「さん!」と叫び、荷台から飛び降り道路へ着地した。いかずちのような轟音が閑静な住宅街に響き渡り井上家のド真ん中には大穴が空き、パソコンくんを乗せた4tトラックはそのまま走り抜け、夕焼けの彼方に消え去っていった。井上家の前に一人、また一人とレクイエムズ達が集合した。4人全員が井上家だったものの前に揃うと、そのうちの一人が「本時刻を以て井上レクイエムズを解散とする!」と叫んだ。彼らは瞳に涙を湛えながら熱く長い抱擁を交わしそれぞれの帰路へ就いた。

 自宅に到着したレクイエムズ達は全員同じ結末を迎えた。全員の家に井上家と同じように大穴が空いていたのである。井上家は「鏡」だったのだ。類が友を呼ぶように、ある人間の周りの人々がその人の水鏡であるように、井上邸は他者からの憎悪をそのままその人間の家に還す。レクイエムズの4人は己の未熟や妄執を悟り、示し合わせていたわけでもなかったのにも関わらず各々その場で拳銃自殺をした。

 鏡、つまり井上邸の効果はレクイエムズの家に大穴を開けるという結果だけを再現するものではなかった。結果に至るまでの過程、つまりパソコンくんによる4tトラック突撃までも再現していた。これによりレクイエムズメンバーの数と同じ4人のパソコンくんが新たに創造され、この世には計5人のパソコンくんが実在することになってしまった。これを知った私立蹂躙学園校長の「暴虐院 粉砕」は以下のような判決を井上猛に下した。

「此度の決闘デュエル、誠に見事であった。4人の敗者は最期に黄泉の手向けを手にしたことであろう。しかし、無辜のパソコンくんを4人を新たに誕生させてしまった罪は重い。勝者は井上猛で相違ないが井上猛に3ヶ月間の決闘禁止令を申し付ける」。

 「決闘が無え学園なんてつまらねえぜ」。そう言って猛は校長室から出ていった。猛は翌日から3ヶ月間、学校に行かなくなったため、晴耕雨読の日々を送るようになった。そして、井上猛は決闘禁止令最終日に一編の詩を書いた。

我四鉄塊還

強敵悟自死

此永遠忘不

青春之真実

 禁止令の開けた初日に猛は4輪の薔薇を花屋で購入し、教室に向かうとかつての強敵ともの席に1輪ずつ供えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

決闘者 井上猛 @mayukani381

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ