恋愛のファンタジーですが、私は主人公のアウゲ姫のヒロインとしての強さにやられてしまった質です。
生まれた時から全身から毒を発する体質に生まれてしまった王女のアウゲ姫。
毒を発するものは18歳で魔界へ嫁ぐ非情な運命が定められている国で、誰とも触れ合うことができないまま成長したアウゲ。
しかし彼女は捻くれるでも、自らを悲観するでもなく、負けず嫌いで気丈な性格を以てその運命を受け入れようとしていました。
その想いの根底には、自分の毒で周囲を困らせたくないと言うアウゲの人一倍優しい心があるのだと思います。強い子なのに運命をぶち壊そうとはせず、受け入れようとする彼女のいじらしさに心を打たれました。
そんな彼女の元へ突然やってきた、アウゲを全く怖がらないどこか風変わりな護衛の騎士のヴォルフ。今までにされたことのない扱いを受けたアウゲは戸惑いつつも、別れが来ると分かりきった相手に心を砕かないように振る舞うのですが…
そんな強い彼女の心の機敏と、ヴォルフの意図が合わさって物語は思わぬ方向へと進んで行きます。
読みやすい長さで気が付いたらすぐ読み終わっている、本当はもっと長い話だったように感じる構成の良さにも注目して欲しいです。
週末の読書にぜひお勧めします。
美しい顔の半分を厳重にマスクで覆い、他の王族たちの社交の輪には決して加わらない王女――アウゲ。その全身から漏れ出る毒を恐れ、貴族や王族はおろか、使用人たちからも距離を置かれている彼女はまさに孤独な存在だった。しかしアウゲはどんな畏怖と奇異の目にも負けず、今日も凛と顔をあげている。
そんな彼女を見つめる、ひとりの近衛騎士――ヴォルフ。新しく側近となったこの男は今までの騎士たちと違い、なんと犬のようにアウゲに懐いてきた。毒の危険を説いてもけろりとしているヴォルフに苛立つアウゲだったが、そのまっすぐな親愛にいつしか心に絡まっていた茨が解けていく。
しかしアウゲは自覚しはじめた恋に身を委ねることができない。なぜなら彼女は次の誕生日を迎えるその日に、魔界の王の元へ嫁がなければならないという運命を背負っていたのだった……。
負けず嫌いなツン王女と、彼女にベタ惚れしてしまったわんこ系騎士。この組み合わせだけでも楽しいというのに、短い物語の中で語られる世界は美しく残酷で、気が付いたらどっぷり没頭しておりました。
ヴォルフの気さくさに感化され少しずつ心を開くアウゲが愛おしく、だからこそ迫るタイムリミットを思うと切なくてなりません。何気ない日常のきらめきを慈しむ王女の姿は誰もの胸を打つでしょう。別れの日のふたりの描写はさすが…!と唸ってしまいました。
悲しいお話なのかなとがっかりした方、ご安心ください。これだけの絶望を抱えながら、なんとこのお話はハッピーエンドを迎えてしまうのです!
孤独と共に歩んできた毒姫がどのようにして幸せを掴むのか……その驚きの結末まではあっという間。夏の終わりにぴったりな名作です。もっと読まれてお願い。
ギュンターローゲ王国の第三王女、アウゲ・ギュンターローゲ姫。
彼女は全身から毒を放出し、その存在自体が周りの人間を蝕んでしまう、通称『蠱毒姫』。
王家の決まりに従い、アウゲは18歳の誕生日に魔王のもとへと嫁ぐ事が決まっていた。
自分の毒で周囲の人間に害が及ぶのを嫌い、しかし気高く、どれだけ内心傷つこうとも凛としている彼女の前に、ある日現れたのはこれまでの世話人とは全く違うタイプの護衛騎士ヴォルフ・フォンレドルで——。
人と当たり前に触れ合うことも、話すことすら許されなかったお姫様と、そのお姫様ににこにこと付き従い、一つひとつ心の棘を溶かしていくようなヴォルフとの交流は読んでいてこちらの心も温まるほど、とても微笑ましいです。
様々な場面の景色、移りゆく季節、建物の様式。
煌びやかさと質素さ、艶やかさと仄暗さの混在をこうも美しく表現し、まるで目の前に実際に広がって見せるかのような描写は必見。
その毒に心までは蝕まれなかった美しい姫、しかし18歳の誕生日は刻一刻と近づいてきていて……。
物語の冒頭から所々に仕込まれたギミックに、ラストの一文その時まで「あぁ……」と感嘆のため息がこぼれそうになるクライマックスはお見事。
青い薔薇には「不可能を成し遂げる」等といった素敵な花言葉が存在します。
彼女にとって「毒」とは、もしかすると「祝福」だったのかも——。
美しく、とてつもなく素晴らしい物語です。
是非アナタも、この物語の毒に浸ってください。
ギュンターローゲ王国第三王女のアウゲ姫は、全身から毒を放出するゆえに周囲から忌み嫌われて生きてきました。常時マスクと手袋をはめさせられ、彼女に触ることはおろか、誰かと同じ空間にいることすら許されません。そして18歳の誕生日には、魔界の王のもとへ嫁ぐことが決まっていました。
そんなある日、彼女の護衛を担当することになった騎士ヴォルフが現れることで運命は動き始めます。
命の危険があるからとヴォルフを遠ざけようとするアウゲ姫ですが、ワンコな彼はいいじゃんいいじゃんとばかりにグイグイ遠慮なく彼女の懐に入っていきます。しまいにアウゲ姫も絆されていき、やがて恋が芽生え始めますが…恋をすることすら許されない彼女はその想いを閉じ込めなければなりません。彼を想いながらも魔界へ嫁がなければならない、一度でいいから触れてほしい、そんな彼女の切ない想いがヒシヒシと伝わってきました。
負けず嫌いで周囲の陰口も跳ね返してきたアウゲ姫が、自分に負けそうになるシーンには胸を打たれます。
最後は意外な展開により物語はハッピーエンドへ。報われない人生を送ってきた彼女が掴んだ幸せを、ぜひその目で見届けてください。素敵な作品です。